#  1258

『住友郁治/Oratio 2 -recital2014-』
text by Kayo Fushiya 伏谷佳代


Bishop Records EXAC01(10月20日発売予定)

住友郁治(Fumiharu Sumitomo) ;ピアノ

1. モーツァルト:幻想曲ニ短調K.397
2. ショパン:バラード第3番変イ長調op.47
3. ショパン:スケルツォ第3番嬰ハ長調op.37
4. ラフマニノフ:前奏曲op.3-2「鐘」嬰ハ長調
5. ラフマニノフ:前奏曲op.23-5ト短調
6. ラフマニノフ:前奏曲op.32-5ト長調
7. ラフマニノフ:「音の絵」op.39-9ニ長調
8. リスト:2つの伝説S.175 R.17
 1.小鳥に説教する聖フランチェスコ
9. リスト:2つの伝説S.175 R.17
 2.水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ
10. リスト:巡礼の年第2年「イタリア」より
 ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」S.161 R.10b

録音:2014年10月1日横浜みなとみらいホールにおけるライヴ
使用楽器:Boesendorfer290 Imperial
レコーディング&マスタリング・エンジニア:近藤秀秋
ディレクター:住友郁治
プロデューサー:近藤秀秋

異才・住友郁治の美の本質に肉迫するドキュメント

「知る人ぞ知るピアニスト」住友郁治による2014年のソロ・リサイタルのライヴ録音。聞くところによれば、この日の住友は過度の心労により劣悪な身体コンディションであったという。今回の録音は、そうした極限状態の裏返しであろう、極度の集中力と研ぎ澄まされた感性が、幽玄ともいえる境地を創りだしている。「無心」を超えた、その先にある演奏は、タイトルである“Oratio” (祈り) を連想させる。一見静謐さをまといながらも、音に潜む信念がすさまじい。聴き手は派手な衝撃こそ受けないものの、じわじわと浸食されていくスリルに気がつけば囚われている。

モーツァルト、ショパンへと弾き進むなかで、硬質な音色が徐々に華やかに開花してゆくさまには、いかなるコンディションでも容易には乱れをみせないヴェテラン・ピアニストの筋のよいリリシズムが見てとれる。生来のセンスというべきものだ。あたかも季節の推移をみるかのような自在で自然な空気感がある。とりわけ単音の高貴さは格別であり、ピアニスティックな効果にみちたラフマニノフやリストのパッセージの数々は珠玉と呼ぶにふさわしい。

やはり住友郁治といえばリストであろう。3年前に聴いたリサイタルでも感銘を受けた「二つの伝説」であるが、さらに凄みを増したようだ。作曲家がつけた標題がいかにも正確に表現されているような優等生臭さはみじんもなく、まさに言葉いらず。音がすべてにリードする。音がそれ自身の生を生き、清濁併せ呑むドラマとして仕上がっている。住友郁治というピアニストが際立った個性を放つのは、このドラマ性の豊かさ所以である。ピアノという楽器にこだわり抜きつつも、クラシック音楽という枠組みを超越した説得力で聴き手に迫る。思えばその美の本質がデモーニッシュなものと表裏一体のリストほど、住友にふさわしい作曲家はいまい。その事実を確信する1枚である。奏者の繊細な心の襞に寄り添うような研ぎ澄まされた録音技術もすばらしい(*文中敬称略)。

《関連リンク》
http://bishop-records.org/musicians/musicians_SFumiharu.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report353.html

伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。

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