#  1264

『吉田野乃子 Nonoko Yoshida / Lotus』
text by Takeshi Goda剛田武


CD 2015 Nonoya Records Nonoya 01

Nonoko Yoshida (alto sax)

1. Take The F Train
2. Desert Island
3. Taka 14
4. Lotus (improvisation)
5. Uru-kas
6. Ecerpt from 15 Lunatics (for my mother)
7. East River
all compositions by Nonoko Yoshida

produced by Nonoko Yoshida
recorded, mixed and mastered by Joe Plourde
tracks 1 to 5: recorded at The Silent Barn, Brooklyn, September 2015
tracks 6 and 7: recorded at GSI Studios, New York, April 2015
mixed and mastered at Standard Candle Sound, Brooklyn, September 2015
cover illustrations by Tamino Hiroyuki
photos by Mayuko Nakatsuka

無限大の愛情に溢れた、即興演奏家ならではの抒情曲集

本誌「Jazz Right Now」の連載「よしだののこのNY日誌」でお馴染みの女性アルトサックス奏者、吉田野乃子の初のソロ・アルバム。昨年から取り組みはじめ、今年6月のカナダ・ソロ・ツアーや、7月の来日時にも披露されたソロ・プロジェクトの完成型である。

ループステーションを使って、その場で発した音をサンプリングし、フレーズを幾重にも重ねて奏でられる分厚いアンサンブルは、グループによる合奏とは異なり、ひとりの人間の「個性」という周波数が強調され、他の誰とも異なる透徹した魂の音響の集積体である。いわば「ののこの想い」が「∞(無限大)」に拡大・凝縮されたサウンドが、銀盤の回転にあわせて螺旋構造となり、オーディオ装置から溢れ出すのである。

もし自己顕示欲の過ぎる表現者による演奏だったら、聴き手は余りの我の強さに、疲弊し辟易して、例え34分でも耐え切れないに違いない。しかし、このCDは安心して聴いていい。離れて住む家族への想いや、生まれ育った北海道、現在の住処ニューヨークの生活をテーマにした哀感たっぷりのメロディーと、雪崩か猛吹雪のように荒々しいフラジオの嵐が交錯する音世界は、何処か心和む包容力に満ちていて、トボケた中に味のある「ののこ」という名前の響きに相応しい。

抒情的コンポジションの真ん中に置かれた7分間の壮絶極まりない即興演奏をアルバム・タイトルと同じ「ロータス」(蓮の花/ギリシャ神話で、その果実を食べると、楽しく、忘我におちいり、故郷に帰ることも忘れるという植物)と名付けたことで分かる通り、無限大の「ののこ」の中心にあるのは、ロータスを食べてしまった心の寂しさを“うるかす”、故郷への想いに溢れた桃源郷なのである。(2015年11月8日記)

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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COLUMN
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