# 1267
『Mike Nock ~Roger Manins / Two -Out』
『Mike Nock~Laurence Pike / Beginning and end of knowing』
text by Masahiko Yuh 悠雅彦
『Mike Nock ~Roger Manins / Two -Out』 FWM Records FWM - 005 |
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Mike Nock (piano)
Roger Manins (tenor sax)
1. Falling in Love with Love (Rodgers & Hart)
2. Black and Blue (Waller/Brooks/Razaf)
3. It’s the Talk of the Town (Livingstone/Neiburg/Symes)
4. Can’t We be Friends? (James/Swift)
5. We’ll be Together Again (Fischer/Laine)
6. It ain’t Necessarily So (George & Ira Gershwin)
7. Tennessee Waltz (Stewart/King)
8. Isfahan (Ellington/Strayhorn)
9. I let a Song Go Out of My Heart (Ellington/Mills/Nemo/Redmond)
10. Sweet and Lovely (Arnheim/Lemar/Tobias)
11. Golden Earrings (Young/Livingston/Evans)
Recorded 2015年1月27日at Verbrugghen Hall, by Bob Scott
『Mike Nock~Laurence Pike / Beginning and end of knowing』 FWM Records FWM -006 |
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Mike Nock (piano)
Laurence Pike (drums)
1. Beginning And End Of Knowing'
2. Cloudless
3. Akerselva
4. 1000 Colours
5. The Mirror
6. Hydrangea
7. Glittering Age
8. Zerospeak
9. Ocean Back To Sky
10. Prospero
11. Southerly
12. In Closing
Recorded 2015年3月4日〜5日at Rainbow Studio, Oslo ( Norway )
Recorded by Jan Erik Kongshaug
Produced by Laurence Pike
沸き出す意欲はそのままに、むき出しのパッションは抑えたデュオの新作2枚
ニュージーランド出身でかつては米国でフォースウェイを率いて人気を集め、現在はオーストラリア・ジャズ界の指導的音楽家として歳を感じさせない活躍を続けるマイク・ノックが、今度は2枚のデュオ・アルバムを発表した。昨年発表した秀作、彼のオクテットによる『Suite Sima』は個人的には彼のベストを争う傑作と見なして昨年度のベスト3に選んだが、今年も衰えるどころか沸き出す意欲はそのままに、むき出しのパッションは抑えた新作を何と2枚も出したのだから驚く。その2枚がともにデュエット作品というのも異色だが、[1]がテナー奏者とのデュオで、一方オーストラリアではリチャード・パイクとの兄弟演奏家で知られるドラマー、ローレンス・パイクと演奏した最新作[2]は、驚いたことにECMの牙城でもあるオスロのレインボー・スタジオで録音された。技師はむろんヤン・エリック・コングスハウク。ジャケットもECM盤と勘違いするほど響き合っている。そういえば、ノックはかれこれ30数年前に唯一のECM盤『Ondas』をここで吹き込んだことがあった。どんな経緯でオスロ吹込をしたのかは知らないが、ドラマーのパイクがドイツなどで活動していることと関係があるからだろうと推測するしかない。ドラマーとのデュエットということで真っ向から演奏し合うのかと思って聴くと、あにはからんやドラムのパッド・サンプラーを用いてエレクトリック・ドローンなどを設定したサウンド自体はアコースティックで、ときにポエジーですらある。こうした繊細な感覚と奏法でマイク・ノックと対話する[2]は思索的なフリー・インプロヴィゼーションとでもいうべき、その限りではあたかもECMサウンドと通底し合うたたずまいがある。
[1]はテナー・サックス奏者ロジャー・マニンズとのデュオによる演奏。私が15年前に豪州へ行ったときには彼の名を見たことはなかった。ノックと同じニュージーランド出身でシドニーへ移住し、2002年のオーストラリア国際ジャズ賞のサックス部門でウィナーとなって活躍を開始しながら、2004年に故国へ帰り、その後は故国とシドニーとを往来しながら演奏生活を楽しんでいるという。現在、スムース・ジャズのサックス奏法のレッスンを公開しており、本作の演奏でも分かる通りテナー独特の甘い音色と柔らかな奏法で、オーストラリア音楽界で高い人気を獲得しているテナー奏者だが、現在はノックのクヮルテットや注目を浴びたビッグスモールバンド(BigSmallBand)の1員でもある。ここではいわゆる古いスタンダード曲を取り上げているが、「テネシー・ワルツ」とエリントンとビリー・ストレイホーンの名作「イスファハン」以外の曲は同じスタンダードでも今日余り聴かれなくなっている曲が多いと思うと面白い。人の好みは移り変わるものだ。「チゴイネルワイゼン」をベースにした(11)や、同じガーシュウィンでも滅多に聴かれなくなった「ポーギーとベス」の中の(6)のように、もっと演奏機会に恵まれてもいいと思う曲が集められている(意識的ではないだろうが)点はむしろユニークだと言うべきかもしれない。(4)やゆったりしたワルツ調の(5)などがマニンズのサックス奏法の心地よさが味わえる典型だろう。馬子歌のような出だしのガーシュウィン曲も聴かせる。ヴェテランならではのノックとマニンズが酸いも甘いも知り尽くした語り口で静かに甘く迫るところが聴きもの。小節交換や妙な仕掛けやトリックも一切ないオーソドックスなデュエット集である。なお、ノックがここで弾いているピアノは、シドニー音楽院のヴァーブルッヘン・ホールにあるピアノ(Fazioli)で、技師のボブ・スコットの進言でこのホールでの録音を決めたと彼は書いている。
両盤ともオーストラリアのFWMレコード社から発売された。
関連リンク
http://www.jazztokyo.com/five/five1166.html
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2014b/best_cd_2014_inter_12.html
http://www.jazztokyo.com/column/editrial01/v63_index.html
悠 雅彦 Masahiko Yuh
1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、朝日新聞などに寄稿する他、ジャズ講座の講師を務める。
共著「ジャズCDの名盤」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽之友社)他。本誌主幹。
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