# 1271
『Shoko Nagai / Taken Shadows』
text by Takeshi Goda 剛田 武
CD Animul Records ANI 108 |
Shoko Nagai (p, moog, nintendo DS)
Todd Reynolds (vln)
Jonathan Goldberger (g, effects)
Stomu Takeishi (b)
Jim Black (ds)
1. Intimate Wish
2. Solid Angle
3. Lucy
Recorded by Worramon Jamjod, March 10th 2014 @ Roulette, New York
Mixed by Satoshi Takeishi
Mastered by Nate Wood at Kereeboom Mastering
2014 VortexMusic
Shadow Pappet art design by Shoko Nagai
Design by Damian Olsen
Photography by Satoshi Takeishi
All composition by Shoko Nagai (ASCAP)
(C) copyright 2014
生と死の影が交錯する音の鬼ごっこ
<生と死の間に住む悪魔にとって最悪の呪いは、死ぬことが出来ないことだ。>(永井晶子『Taken Shadows』ライナーノーツより)
子供向けの童謡や童話の荒唐無稽な表面の裏には、時に深淵な、時に残酷な、時に含蓄のある豊潤な人類の記憶が刻まれている。「カゴメの歌」の謎解きは度々テレビや新聞ネタになるし、『本当は恐ろしいグリム童話』と云う本もあった。
NY在住の作曲家/ピアニスト/アコーディオン奏者の永井晶子がテーマに選んだのは「影踏み(Taken Shadows)」。影を踏まれたら鬼になるという単純なルールの遊びだが、「影」の意味を探って行くと、人間・生・再生と、鬼(悪魔)・死・滅亡の二極間を往来する輪廻転生の物語が浮かび上がる。永井は、"本当は恐ろしい"影踏みの世界を舞台に、イマジネーション豊かな音楽叙情詩を描き上げた。
ヴァイオリンの切ない調べで幕を開けると、すぐにピアノがリリカルな音色でファンファーレを奏でる。ギターが鋭角のリズムで切り込み、ドラムとベースが乱調のリズムで行進する。入り乱れた合奏が、無調の電子音で中断される...。これがアルバム冒頭5分間の展開である。とにかく場面変換が多彩で、一瞬たりとも飽きることのない、スリリングな曲想は、メンバー5人が繰り広げる鬼ごっこのようだ。ドラマー以外の4人のメンバーが担当楽器に加え、電子機器やエフェクトも担当している。メンバーそれぞれ複数の楽器を演奏するスタイルは、単なるクインテットではなく、フランク・ザッパ言うところの「低予算の管弦楽団(Low Budget Orchestra)」と言えるだろう。
誰が次の鬼になるのか、先の読めない影踏み遊びのように、驚きと意外性に満ちた楽曲展開は、作曲と即興の半々で構成されている。現代音楽、即興ジャズ、プログレッシヴ・ロック、エレクトロニクス・ミュージックなど様々な要素を含みつつ何処にも属さない新鮮な音楽性は、1999年からニューヨークに住み、NY即興シーンの第一線で活躍する一方で、女性ばかりのクレズマー・コンボ「Isle of Klezbos」でアコーディオンを弾き、映画やテレビの音楽を多数手がけるマルチな才能の持ち主の永井に相応しい。
2014年3月10日、NYのルーレットに於ける同名コンサートのライヴ録音。YouTubeで公開されているコンサートの映像を観ると、バックスクリーンに映像が映し出され、聴き手を影の向こう側の世界に誘い込むようなヴィジュアル・コンセプトを持った作品であることが判る。こんなステージを生で体験したら、自分も鬼になって音符と追いかけっこをするスリルが味わえるに違いない。(2015年12月13日記)
YouTubeリンク
Shoko Nagai's tAKE'N sHADOWS III (KAGEFUMI) @Roulette NY
https://www.youtube.com/watch?v=BEuzX0hmcAU
Shoko Nagai公式サイト
http://www.shokonagai.net/
cdbaby(Album Downloadサイト)
http://www.cdbaby.com/cd/shokonagai1
剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。7,80年代東京地下音楽に関する書籍を執筆中。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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