#  648

Pat Metheny/Orchestrion(オーケストリオン)
text by Kenichi IMAMURA

amazon

Nonesuch/ワーナー・ミュージック (1/27発売予定)

  1. Orchestrion (15:48)
  2. Entry Point (10:28)
  3. Expansion (8:35)
  4. Soul Search (9:19)
  5. Spirit of the Air (7:45)

Composed and Arranged by Pat Metheny
All music performed by Pat Metheny, guitar and orchestrionics (pianos, marimba, vibraphone, orchestra bells, basses, guitarbots, percussion, cymbals and drums, blown bottles, and other custom-fabricated acoustic mechanical instruments, keyboard) Produced by Pat Metheny
Recorded at Legacy/MSR Studio , NYC, October, 2009

ジャケットの被写体でもあり、本作のアルバム・タイトルでもある<オーケストリオン>というこの機械、パッと見はスチーム・パンク風だが、相当なハイテクの数々が動員されている。実際に動いている様はメセニーのオフィシャル・サイトやyoutube(http://www.youtube.com/watch?v=hIZ2Ldrr5ok)で確認してほしい。

メセニーのギター・ソロを除き本作の演奏の全てを担うこのマシンは、19世紀後半から20世紀初頭に実在した、からくり仕掛けで複数の楽器を同時演奏する同名の装置(プレイヤー・ピアノや手回しオルガンの拡張と言ってもいいかもしれない)のアイディアをメセニーが現代風に発展させたものだ。専門家とプロジェクト・チームを組んで自動車や工業機器に使われるようなロボトロニクスや空気力学等を応用した最先端テクノロジーの結晶で、複数のアコースティック・ギターやピアノ、パーカッション類やウインド・インストゥルメンツが巧みに制御されている。

というか、その自動演奏の制御があまりにも巧み過ぎて、パッと聴いた耳にはいつものパット・メセニー・グループと大きな隔たりがあるわけではない。曲想もいつもの彼の作品群の延長にある。当初、彼のサイトで音質の悪いストリーミング音源で試聴した時には、グループとしての新作かと一瞬勘違いした程だ。
“グループメンバー各々のエゴや手癖に左右される通常の作品とは異なり、メセニーの脳内世界が忠実に再現されている作品”と一言で定義するのは簡単である。しかし、<多重録音>でなくリスナーの耳に届くのとは別の部分でメセニーは膨大な手間と労力とコストを本アルバムの制作に注ぎ込んでいる点が重要である。今やハードディスク上のセッションでどんな生演奏だって切り貼りできるし、あまつさえメセニーは『ザ・ウェイ・アップ』というハードディスク録音の手法を最大限に生かしたジャズ・サウンド構築の頂点を05年に極めている。のに、彼は本作を作った。

まるで映画『アバター』を最新CGではなく、昭和の東宝特撮の技術陣をフル動員して撮るようなものだ。アウトプットは似ていても、コンピューター処理ではなく人間の贅を尽くした“スタジオの空気”を捉えることが、レコーディング芸術としてのジャズの本質だとメセニーはおそらく考えている。思えば10年前の00年前後、シカゴのトータスやシカゴ・アンダーグラウンド・トリオを中心とする一連の若手ミュージシャン達がプロトゥールズ上で編集されるインストゥルメンタル・ミュージックを作って新時代を切り開いたが、本作ではあくまでスタジオの空気をアナログ的に振動させることにメセニーが心血を注いでいることが非常に興味深い。

テン年代においてジャズは最新テクノロジーとどう関わっていくのか。いくべきか。まずは本アルバムが最初の問題提議を我々に投げかけた。(今村健一)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.