#  649

カーラ・ブレイ/カーラズ・クリスマス・キャロルズ
text by Yumi MOCHIZUKI

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ユニバーサルミュージック/WATT=ECM
UCCE-7009 ¥2,500(税込)

カーラ・ブレイ(p,cel&arr)
スティーヴ・スワロウ (b,chimes )
パルテイカ・ブラス・クインテット:
 トビアス・バイデインガー(tp,flh,glockenspiel)
 アクセル・シュローサー(tp,flh,chimes)
 クリステイン・チャップマン(frh)
 エイドリアン・ミアーズ( tb )
 エド・パルテイカ(btb,tu)

  1. もみの木 O Tannenbaum
  2. 神の御子 イエス様は Away In A Manger
  3. ザ・クリスマス・ソング The Christmas Song
  4. リング・クリスマス・ベルズ Ring Christmas Bells
  5. メリー・ジェントルメン Part1 God Rest Ye Merry Gentlemen Part One
  6. メリー・ジェントルメン Part2 God Rest Ye Merry Gentlemen Part Two
  7. 天なる神には It Came Upon A Midnight Clear
  8. ヘルズ・ベルズ Hell's Bells
  9. ジーザス・マリア Jesus Maria
  10. ジングル・ベルズ Jingle Bells
  11. オ・ホーリー・ナイト O Holy Night
  12. もろびとこぞりて Joy To The World

プロデユーサー:カーラ・ブレイ&スティーヴ・スワロウ録音:(1〜10)2008年12月8日、9日 フランス、ベルヌ・レ・フォンテーヌにて録音
エンジニア:ジェラルド・デ・ハーロ、ニコラス・ベイラード(11〜12)2008年12月4日、ドイツ、ベルリンにてライブ録音

新年の祝賀風景をTVで見ながらカーラのクリスマス・キャロルを聴く。しなやかで適度にスイート、芸達者が揃っているブラス陣、カーラらしいな、と先ず思う。ブラスの響きが実に気持ちいい、無宗教の私にとってはカーラのサウンドが新年を祝ってくれるかのように荘厳に心のうちに響きわたる。昨年の暮れ、クリスマスのタイミングにリリースされたもので全12曲がよく知られたクリスマス・ソングだがいわゆるクリスマス・カバー集とは一味も二味も違ってカーラの最新作という話題性にとどまらず、カーラの発想のユニークさと精神の自由さが鮮明に顕われた興味深い作品である。カーラの前作『アピアリング・ナイトリー』(ECM/WATT) は古きよき時代のビッグ・バンドを模したグルービーなオーケストラ作品であったが、今回はカーラ(p)とスティーヴ・スワロー(b)のおしどりコンビに金管楽器が5本という編成でこれまでのカーラのオーケストラとはちょっと趣きのちがったサウンドを生み出している。曲によって楽器の持ち替えはあるがトランペット、トロンボーン、フレンチ・ホルン、バス・トロンボーン、チューバというブラスのきらきらと輝きをともなった響きが新鮮である。カーラはブラス・クインテットの編成をエド・パルテイカに依頼したという。エド・パルテイカはここではバス・トロンボーンとチューバで参加しているが、B・ブルックマイヤーやマリア・シュナイダーなどとの交流も深く、自己名義のオーケストラやNDRなど多くのオーケストラの指揮をしておりブラス・クインテットのメンバーの人選など本作の成功の影のキイマンではないかと想像される。
カーラは父親が教会のオルガン奏者だった関係で幼い頃から聖歌隊の歌うキャロルを聴いて育ちクリスマスが好きだったことからJCOAのクリスマス・パーティでもJCOAのメンバーにクリスマス・キャロルを演奏してもらったりしていて、その頃からクリスマス・キャロルにとりくむ気持ちが芽生えたという。本作にはそうしたカーラの思いがびっしり詰まっているのである。インナー・スリーブも凝っていて各曲の楽譜と宗教画のようなイラストが絵本のように綴られており、スリーブを見ながら聴くとカーラの思い入れがより一層つたわってくるし楽しみも倍増する。

1曲目の<もみの木>は本作のオーバーチュアのような位置づけで、優しくふくよかなブラス・アンサンブルの響きによってクリスマス・キャロルの世界に導かれる。(2)でカーラとスワローがしっとりとしたムードで曲の流れを設定するなかをフレンチ・ホルンがテーマをストレートに吹く、室内楽的なムードが斬新である。メル・トーメ作の(3)<ザ・クリスマス・ソング>はブラス・クインテットのみの演奏でトランペットが、あの甘い聴き馴染んだテーマをストレートに吹きブラスがハーモニーをつける、ブリッジをフレンチ・ホルンがつなぎ再びトランペットがリードしてブラス・アンサンブルが空間を満たしてゆく、実に甘美でさわやかである。(5)と(6)はジャズ・ファンにはMJQの名演『At Music Inn』(Atlantic) などで耳になじんでいるキャロル <God Rest Ye Merry Gentlemen> のヴァリエーションだがここではブラス・クインテットのみによるブラス・アンサンブル<Part One>(5)とカーラと

スワローのデユオを主体にした<Part Two>(6)と二通りのアレンジによって変化をつけている。ここでのカーラのピアノは耽美的で慎ましくブラスとの対比の間で輝きを放っている。エンディングはベルリンでのライブから<もろびとこぞりて>でカーラのクリスマス・キャロルは終了する。
カーラは1938年5月の生まれだから、すでに齢70をこえているが、子供の頃から耳にしたキャロルを自らの美しい祝歌に作り上げたいという積年の夢がかなった喜びが潤沢にあふれ出ていて、音量を上げれば上げるほど優雅でふくよかなそして美しいブラスの響きが部屋の隅々まで満たし潤してくれる。
 本作はカーラが少女にかえって溌剌としてサウンドと遊び戯れる清々しい情景が浮かび上がり、それは日頃の才気が勝ったイメージとはことなったカーラの素顔が垣間見られる素敵なアルバムである。(望月由美)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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