#  657

藤井郷子オーケストラ東京/ザコパネ
text by Masahiko YUH

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『藤井郷子オーケストラ東京/ザコパネ』
LIBRA/ボンバ・レコード 216-027 \ 2,500 (税込)

1.ネゴシエーション・ステップス
2.デザート・シップ
3.ジー   
4.さくら    
5.トロピカル・フィッシュ 
6.ザコパネ  
7.トラウト  
8.いのり

Reeds:早坂紗知(ss, as) 泉邦宏(as) 松本健一(ts) 木村昌哉(ts) 吉田隆一(bs)
Trombone: はぐれ雲永松 高橋保行 古池寿浩
Trumpet:田村夏樹 福本佳仁 渡辺隆雄 城谷雄策
Guitar:ケリー・チェルコ
Bass:永田利樹
Drums:堀越彰
Conductor: 藤井郷子

録音:エピキュラス・スタジオ(東京)、2009年 9月30日
マスタリング:MASTERDISK ( New York )、2009年10月15日

去る1月9日の新宿「ピットイン」における前代未聞のコンサートがまだ瞼から消え去らない。当日の看板は<4バンド一挙同日ライヴ>。つまり、<4タイトル一挙同時リリース>を記念しての祝祭的ライヴ。実際、どれもあの日の熱気が瞼に焼きついて離れないほどの聴きごたえだった。
 その4タイトルとは,1.『ガトー・リブレ/Shiro』、2.『ファースト・ミーティング/Cut the Rope』、3.『ma - do/Desert Ship』、4.『藤井郷子オーケストラ東京』で、むろん4.が上掲CD。ボンバからじかに発売された3.以外はすべて田村&藤井夫妻の Libra レーベルから同時に出た。これだけでも驚くべきことだが、彼らが主宰する4バンドが休憩を挟んで次々にステージで熱演を繰り広げたのだから、4CDの同時発売という快挙?と合わせて言えば,前代未聞どころか空前絶後と言ってもあながち言い過ぎではあるまい。それにしても、夫妻の疲れを知らぬ活力と情熱の傾注ぶりには久々に驚かせられた。と同時に、彼らの創造の源泉が奈辺にあるのか、考えれば考えるほど不思議な気持になった。あのエネルギーはどこから生まれ出るのか。化け物としか言いようがない。まして2人とももはや20代の若人ではないことを思えばなおさらだ。
 今回同時発売した4作はどれも優れた出来映えである。だが、4枚をすべて紹介するわけにはいかない。どれか1枚にしぼるとすれば,ma-doかオーケストラ。ここではオーケストラの爆発的なパワーと存分に考えられた構成のバランスが生みだす快感に軍配を上げた。
 藤井郷子にはオーケストラ東京のほかに,オーケストラNYC、オーケストラ名古屋があり、神戸もある。この4オーケストラで、97年以来すでに14種のCDを発表しているのだ。これだけでも凡人には驚異の的だが、外からは彼女が余りにあっけらかんとしているのと、まるで散策でも楽しんでいるかのような開放感ゆえか、そんな大それたことをする女性には寸分も見えない。その落差が私には面白い。もっとも田村夏樹という相棒がいてこその彼女であることは分かり切ったこと。しかし、オーケストラに限っては田村は縁の下の力持ちに徹しており、コンポーザーとしての,及びオーケストラ集団である全体をまとめ、個々の力を引き出リーダーとしての藤井郷子の能力は疑うべくもない。そのことをまたもや思い知らされた。それがオーケストラ東京としては第4作に当たる本CDにおける彼女の力業ぶりである。
 この新作は4作目にして初のスタジオ録音。藤井郷子が作曲に精魂を傾注し、じっくり作品構成を練り上げた跡がよく分かる。苦労した跡も見える。それだけに1曲とて駄作はない。LPと違い、CD時代になって収録時間が増え、聴き通すのに忍耐を要求されるようになった。飛ばし聴きする例も多くなった。本作は通算64分余だが、途中で匙を投げることはまったくない。それどころか,3度繰り返して聴いてしまった。過去のライヴにはライヴなりの活きのよさが横溢していて、そのスポンテニアスな魅力は依然捨てがたいが、このスタジオ録音はどの演奏も密度が高く、楽曲の仕上がり具合と精度もそれに伴ってかつてない達成度に達している。
 残念ながら個々の演奏や楽曲に触れるだけの余白がなくなった。特記したいのは,結成以来約10年間をこのバンド活動にいそしんできた生え抜きメンバーもかなりおり、それだけアンサンブルもかつてない精度に達していること。(1)や(7)、(8)に代表される呼吸のあったバランスのよさ,各セクションのユニゾンが織りなす重層的ハーモニーが強く訴える(3)など賞賛すべき好例は目白押し。これは藤井のスコアリング、すなわちオーケストレーションを含む作曲技法の成果とも言うべきで,(1)の後半、リズミックな(2)の前後をたゆたうマイナー調のムード、とりわけ(5)や(7)の一聴してすぐ彼女と分かるアンサンブル・パッセージなどは、藤井郷子の技法と魅力の結晶といっていいと思う。(5)でのルンバ風のリズムの進む主部がオーケストラ神戸の1曲を、(8)の後半でサックスのアンサンブルの入ってくる箇所が往年のリベレーション・オーケストラをしのばせる発見もあった。ソロには触れなかったが、どれも充実味に富む。近年参加したケリー・チェルコのノイズ風ギター・サウンドもライヴで聴くより効果的で、持味が発揮されていた。(4)の<Sakura>の曲調は鎮魂曲風で重々しいが、すると「さくら」にはどんな意味やイメージがこめられているのだろうか。
 なお,藤井郷子は今回,全体の指揮に徹してピアノの椅子には座らなかったように聴いた。2010年1月22日。(悠 雅彦)
♪関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/live_report/report252.html

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