#  659

リパッティの芸術6/ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル
text by Mariko OKAYAMA

amazon

『リパッティの芸術6/ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル』
EMI CLASSICS Grabdmaster Series TOCE-3159 1,700円

ディヌ・リパッティ(pf)

バッハ/パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第8番イ短調 K.310
シューベルト/即興曲第3番変ト長調 D.899-3、第2番変ホ長調 D. 899-2
ショパン/13のワルツ 第5番、第6番、第9番、第7番、第11番、第10番、第14番、第3番、第4番、第12番、第13番、第8番、第1番

録音:16.Sep.,1950@Besancon Festival(live)
リマスタリング:Yoshio Okazaki

今年はショパン生誕200年で、ぞくぞくとショパン譜が登場している。アルゲリッチ、グルダからユンディ・リ、はたまた14歳の小林愛美デビュー盤にもショパンが並ぶ。
牛牛のモーツァルトを本欄で紹介しただけに、日本の神童にも触れるべきだろうが、収録されたこの少女のバッハ、ベートーヴェン、ショパン(DVDも含む)から届いて来るものは、牛牛の音楽世界とは異なる、とだけ言っておく。
私のショパン・イヤーは、リパッティの告別コンサートから始めたい。死を目前にした33 歳のピアニストが遺したライブ録音で、絶品とされたショパンのワルツ13曲が後半を占める。
ワルツは遺作を含め全14曲とされるが、当夜最後に置かれた『第2番』を弾けずに終えた。残った力を振り絞り、最愛の曲バッハのコラール『主よ、人の望みの喜びよ』で聴衆に最後の別れを告げたが、残念ながらこれは録音されていない。
ピアニストも聴衆もそれと知ってのステージゆえに、最初の拍手から最後の拍手まで、息詰るような凝縮された時間と空間がそこには宿る。バッハの前に、キイを確かめるように弾かれるコードのアルペジオ。沈黙ののち、清澄なバッハが流れ始める。続くモーツァルトのプレストは背後に迫る死を振り払うような小刻みな歩調で。ときおり射し込む明るさが胸を打つ。シューベルトの2曲も魂の深い水底にたゆたう美しさ。 ワルツは・・・リパッティ独自の配列で周到に編まれた13曲を貫く精神の糸をどう言ったらよいか。たとえばほんのり哀色を浮かべた『第7番』から『第11番』へと飛び移り、きららかな飛翔を見せるその音のはばたき。『第3番』の独白からそのまま輝く水面に飛び込み、遊び戯れる『第4番』へ。そうした音の結び目に、この夭折の天才の知情意が光り瞬く。
伝説の名盤を今更、と言ってはいけない。エネスコを洗礼父に、コルトー、ブーランジェを師としたリパッティからこそ、ショパンの旅へ出立したい。死の30分前にベートーヴェンの『弦楽四重奏第11番』を聴いてピアノに向かい、ショパンの前奏曲とバッハの『シチリアーナ』を弾いたというそのピアニストの音楽に、今日の演奏を、自分自身を向き合わせたら、何が聴こえてくるだろう。(丘山万里子)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.