#  662

Absolute Ensemble featuring Joe Zawinul/Absolute Zawinul
text by Masanori TADA

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『Absolute Ensemble featuring Joe Zawinul/Absolute Zawinul』
Intuition(独) INT 34562

Joe Zawinul (composer, key, vocoder),
Kristjan Jarvi (music director, conductor)
Gene Pritsker (arranger)
Absolute Ensemble & Sabine Kabongo (vo)
Allegre Correa (g, vo)
Aziz Sahmaoui (perc, vo, gumbri)
Jorge Bezerra (perc)
Paco Sery (ds, perc, kalimba)
Linley Marthe (e-b)

1. Bimoya
2. Sultan
3. Great Empire
4. Peace
5. Good Day
6. The Peasant
7. Ballad For Two Musicians
8. Ice Pick Willy
Bonus: Film of Kristjan Jaervi/Joe Zawinul/Absolute Ensemble
taken from the documentary “ERDZEIT” 11.02 minutes

Produced by Kristjan Jaervi
Recorded @ Absolute Studios, NYC, January & April, 2007
#8 recorded live @ Hansahaus Studios, Vienna
ORF @ Zawinul Tribute Concert, September 2007

じつに鮮烈で、瑞々しいザヴィヌル・ミュージックがここにある。優美でさえある。 読んでいた四方田犬彦の『音楽のアマチュア』と内田樹の『日本辺境論』を中断して、数日前に札幌のタワーレコードで購入した中山康樹著『マイルスの夏、1969』(扶桑社史新書069)を読み始めている。史実からドラマを読み解くスリリングな本だ。ザヴィヌルになった気持ちにさえなってしまう。どうでもいいことだが札幌タワレコのバイト時給は730えんだ。札幌雪まつりの吹雪の中、ザヴィヌルの新作を聴いた。

ジョー・ザヴィヌルは07年9月11日に皮膚癌で逝去した。2ヶ月前にスイスのルガーノで75さいのバースデイ・コンサートが開かれており、その模様はライブCDとなっている。エンディングはショーターを迎えての<イン・ア・サイレント・ウエイ>だった。演奏の出来をうんぬんしたくない。それよりも、ショーターをアナウンスするよそよそしさに寂しい感想を持った。ザヴィヌルは「ウエザー・リポート」以降の活動こそが、と、ことに『World Tour』(1997)に感動しながら追いかけてきた。

04年以降、ザヴィヌルはこのアンサンブルを新しい楽曲で構想し始めている。発端は、生まれ故郷のウィーンのTonkunstlerオーケストラの首席指揮者であるクリスチャン・ヤルヴィが、ザヴィヌルに共演を持ちかけたことによる。室内楽アンサンブルとホーンやパーッカッションを融合させて、マイルス・グループ〜ウエザー・リポート〜ザヴィヌル・シンジケートという変遷をさらに進化させた音楽を構想していたことが窺(うかが)える。
そして、それは奇跡的な昇華を果たしている。スター・プレイヤー、たとえばサックス奏者やベース奏者、の、個人技に頼らずに、楽想を構築し切り、サウンドのパノラマ状態を次々に展開・維持し、ザヴィヌルはヴォコーダーやキーボードでサウンドを彩る時間は少ないにもかかわらず、ずっとザヴィヌルが奏で続けているような壮大な音楽なのだ。その背景には、クラシカルなもの、綿密にスコアは書き込まれ、鍛錬されたアンサンブルの弓がしなるようなグルーブ感、が、あり、ザヴィヌルのヴィジョンが余すところなく映し出されている様相となっている。まさに、ザヴィヌルの桃源郷だ。
だけど、ザヴィヌルが弾いていなければ、その魔法は消える。トラック1からトラック6までは、ザヴィヌル桃源郷。トラック6は不在かもしれないが。トラック7はクラシック的な構造しか聴こえず、レクイエムのようだし、トラック8はザヴィヌル不在のトリビュート・コンサートの演奏で、ザヴィヌルがいなければあの音楽は再現されないことを証明するような、元気で威勢がいいだけの音楽だ。

ザヴィヌルは、このアンサンブルに託して永遠に生きたかったに違いない。逝去する2日前まで、このアンサンブルのために、自らが歌うことを構想した曲を作曲し、自らコンサートに立つことも話していたという。なお、このCDには、コンサートのリハ映像、レコーディング風景、ザヴィヌル〜ヤルヴィの会話など11分余りの感動的な映像も収められており、ファンには必見の内容だ。(多田雅範) 

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NEW1.31 '16

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