またイタリアから、推薦に値する作品が送られて来たので紹介したい。
ミラノに次ぐ、ロンバルディア州第二の都市ブレシアで、２００９年に設立されたre: think-artレコードよりの第1弾が、この『Timoka』。ギタリスト兼作曲家のウォルター・ベルトラミの作品だ。ベルトラミ／ボルディガ／マニスカルコのトリオは、本アルバム以前に『Walter Beltrami Trio』（２００４年作）と『Piccolo Numeri』（CamJazz：２００７年作）をリリースしている。

本作の録音は、エンリコ・ラヴァやステファノ・ボラーニのECM作品を始め、最近のイタリアン・ジャズの録音を一手に引き受けている感のあるステファノ・アメリオ氏が、自身のアルテスオノ・スタジオで行っている。静謐さを感じさせる録音や、パッケージ、２００７年に亡くなったスウェーデン出身の名映画監督＝イングマール・ベルイマンに捧げられている事からも窺（うかが）えるように、北欧系の色彩感が強い。全体を通して、ECMにも通じるトーンが主体だが、一部のフレーズには、“歌の国”イタリアで培われたメロディアスさが漂う。タイトルは、１９６３年のベルイマン監督作 『沈黙』に登場する架空の町 “Timoka”に由来すると思われる。

ベルトラミのギターからは、テリエ・リプダル、ビル・フリゼール、パット・メセニー他からの影響を聴き取る事ができるが、基本を押さえた上で、彼自身の個性を絶妙にブレンドしている点に好感が持てる。これは、作曲にも当てはまり、オーネット・コールマン的なタイトル曲（ポール・モチアン的と言うべきか？）、キース・ジャレットのヨーロピアン・クァルテットを連想させるバラードの〈Thulin〉、ハードなリプダル路線の〈Corridors〉や〈Spider〉からオルタナ・ロック系の〈ppp〉まで、ヴァラエティに富んだ曲想を独自な感覚で創出している。ミステリアスな小品〈Emotions〉で始まり、そして終わるアルバム構成も中々だ。

本作品でゲスト・スター的存在のベアルザッティは、個人的に大好きでコレクションしているアルド・ロマーノの作品『Because of Bechet』（仏Universal Music：２００２年作）で知ったリード奏者。彼は、ロマーノのヴォーカル専念作『Chante』（Dreyfus：２００６年作）や『Etat de Fait』（Dreyfus：２００７年作）にも参加している他、ロマーノやラヴァが加わったリーダ作３枚をAuandレコードより発表している。最近では、アンリ・テクシェのグループにも加わっている様子。

ベース奏者のボルディガ及び、ドラマーのマニスカルコは、まだ“若手”だが、何れも優れた実力の持ち主。今後の活躍が、楽しみだ。
re: think-art レコードは、ブレシアで開催されている同名のフェスティバルとタイアップで設立されたとの事。２０１０年度は、本作のドラマー＝マニスカルコのグループ“Slow Band”のデビュー作、ルイ・スクラヴィス等との活動で有名なフランス人チェロ奏者＝ヴィンセント・コートワのソロ・アルバムの２作品を発表予定。期待したい。 （Nobu Stowe／須藤伸義）

*『Timoka』は、残念ながら、日本での入手が困難な様子。しかし、レーベルのホームページ他で購入可能。
**詳細は、以下のホームページで：

re: think-art records (www.rethinkartrecords.com)

Walter Beltrami (www.walterbeltrami.com)
Francesco Bearzatti (www.francescobearzatti.com)
Roberto Bordiga (www.myspace.com/robertobordiga)
Emanuele Maniscalco (www.emanuelemaniscalco.com)