#  664

ピーター・ビーツ&ジャズ・オーケストラ・オブ・ザ・コンセルトヘボウ/
ブルース・フォー・ザ・デイト
text by Masahiko YUH

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『ピーター・ビーツ&ジャズ・オーケストラ・オブ・ザ・コンセルトヘボウブルース・フォー・ザ・デイト』
JOC Records/55 Records FNCJ ? 5539 ¥2, 500

1.イッツ・ハプニング
2.フォー・サイモン
3.ファースト・ソング
4.デガージ
5.イズ・イット・ロング・トゥ・ビー・ライト?
6.トリスティティ
7.ブルース・フォー・ザ・デイト  

Conductor:ヘンク・ムトヘールト
Reeds:ヨリス・ルーロス(as, ss, cl, fl )ヨルク・カーイ(as, fl)サイモン・ライター(ts)シュールト・ダイクハウゼン(ts, cl) ホアン・マルティネス( bs, bcl )
Trumpets/Flugelhorn : イェレ・スハウテン ウィム・ボット リニ・スウィンケルス、ルート・ブルルス ヤン・ヴァン・ダウケレン
Trombone : マタイン・ソヒア ハンスヨルグ・フィンク バート・ブーレン マティーン・デ・カム(btb)
Rhythm : ピーター・ビーツ(p)マタイン・ヴァン・イターソン(g)フランス・ヴァン・ヘースト(b)マタイン・ヴィンク(ds)

Arrangement : ヘンク・ムトーヘルト(1、4、5、7)ロブ・ホースティング(2、3)ユーレ・ハーンストラ(6)

Recorded live at Bimhuis, Amsterdam /2009年4月5日
Producer : Juan Martinez

 昨夜(3月11日)ブルーノート東京で、米西海岸から来演した、その名も Big Phat Band なるビッグバンドを聴いて楽しんだ余韻がわだかまっている。そんな中で、あたかも脳裏の奥ではオランダと米国の両ビッグバンドの競演がはからずも実現したかのような面白さを味わった。言い換えれば、それだけ米国と欧州のビッグバンドの質的な違いが、この両バンドをたて続けに聴いたことでより鮮明になったということ。その結果、このジャズ・オーケストラ・オヴ・ザ・コンセルトヘボウ(JOC)の特徴や美質も活きいきとクローズアップされることになった。

 近年、ビッグバンド熱が高まっている。これは日本だけの特別な現象でもなさそうだ。名門デューク・エリントン楽団やカウント・ベイシー楽団も過去の栄光の歴史に縛られることのない新しい体質をつくりあげつつあるし、他方グラミー賞に輝いたヴァンガード・ジャズ・オーケストラに代表される新しいタイプのビッグバンドも次々に現れている。ロイ・ハーグローヴのビッグバンドの来日公演などは稀に見る聴き物だった。近年注目を集めているこれら内外ビッグバンドの王座を巡るバトルに名乗りをあげたJOC は、日本で発売された『リフ&リズム』が好評を得たのをきっかけに徐々に注目度を高めてきたが、とりわけ初来日した一昨年秋のブルーノート東京公演でのエキサイティングな演奏が記憶に新しい。


 この『リフ&リズム』を聴いたときの当時の第一印象は、カウント・ベイシー楽団の現代への甦りを思わせるだけのよく弾むスウィング感と高度な演奏技術に裏付けられた一糸乱れぬアンサンブルの心地よい音楽性、だった。ただ、それ以上でもなければそれ以下でもない…そんな個人的な評価を覆した機会が来日演奏だった。ナマを見て見方が変わった。そのときに肌で感じたJOCの高度なアンサンブル技術に象徴される特徴が、米国のビッグバンドと並べるようにして聴くことができたおかげで明快になったのだ。

 JOCはジャズの楽しさをビッグバンドという器をフルに使ってけれん味なく伝える。その演奏は折り目正しく、いたずらにエキサイトしたり羽目を外したりすることはない。行儀がいいと言えばその通りだが、ジャズと真摯に向き合うことによってアートとしての音楽的内実を堅実な態度で獲得してきたJOC ならではのジャズ観が口当たりのいい快感と滋味汲みすべき美味を生みだしているのだ。『シルク・ラッシュ』につづくこの新作は自軍の秘蔵っ子ピアニスト、ピーター・ビーツを全面的にフィーチュアしたという点で異彩を放つが、バンドそれ自体の特性や高度な質が著しく変わったわけではない。確かに収録された7曲はすべてビーツのオリジナル曲だが、映画の作曲家ユーレ・ハンストラが手がけた(6)を除いて、リーダーでJOC 独自のサウンドを創りあげてきたヘンク・ムトーヘルトとロブ・ホースティングが編曲しており、これまでのJOC の特徴と魅力を活かしたサウンドが展開されているのはいうまでもない。だが、このピーター・ビーツという人は極めてピアニストとしての高い能力と作曲家としての豊かなアイディアの持主と聴いた。ソロがない「ファースト・ソング」を除く全曲で、スリリングなフレージングや音楽的に充実したソロの構成を披瀝するが、バンド同様にアーティストとしての見識と精神を疑わせるようなプレイに堕すことは決してなく、終始誠実味溢れる演奏を披露していて好感をもつ。それが高度なアンサンブルによってバックアップされながら、トータル・サウンドとして奔出するときの整然とした魅力は、最終的にJOC ならではのものになる。むしろ大向こう受けを狙って、多少の脱線はプラスに転換していくエンタテインメント性を発揮しながら、聴衆を巻き込んだエキサイティングな演奏を押し出す米国Big Phat Band とは正反対なくらいに違う。この違いはジャズを生んだ国(アメリカ)と、ジャズを優れた文化として受容した国々(ヨーロッパ)の、ジャズにアプローチするミュージシャンの態度や意識の格差を物語っていて、すこぶる印象的だった。

 オープニングの「イッツ・ハプニング」から快適にスウィングする昨年4月のこのライヴ。スタジオ録音にない生気に満ちた緊張感と、聴衆との暗黙の交感が全編に横溢する。気持がいい。お薦めは(5)で、ムトヘールトのアレンジがご機嫌。10分を超える長尺演奏なのに、飽きさせることがない。のみならず各曲7分以上で、総じて1曲1曲が長いのだが、ダレることがほとんどない。アンサンブルの質の高さと活きのよさゆえ、ダレることがないのだ。それとリズムのよさ。これは及川さんにオーディオ評価をしてもらいたいくらい、分離のいいライヴ録音。特にベースのウォーキングやドラムスの切れ味がアンサンブルのよさを際立たせた特効薬でもあったろう。(2010年3月13日 悠 雅彦)

*関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/486/joc.html
http://www.jazztokyo.com/newdisc/469/nnh.html

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