# 666
上野尊子/It’s De-Lovely
text by Kuniya INAOKA
『上野尊子/It’s De-Lovely』
JAZZIN/BounDEE DDCZ-168
上野尊子 (vo)
片山勝義 (b)
高浜和英 (p)
広瀬潤次 (ds)
+
本田竹曠 (p-#13/14)
1.It’s De-Lovely
2.Do You Know What It Means To Miss New Orleans
3.I’m a Fool to Want You
4.Come Fly with Me
5.A Nightingale Sang in Berkeley Square
6.Danny Boy
7. Get a Kick Out of You
8.Autumn in New York
9.Sunday in New York
10.Smile
11.Tennessee Waltz
12.This Can’t Be Love
13.A Child Is Born
14.Mona Lisa
Recorded and Mixed at Music Studio JAZZIN, October, 2009.
and March, 1997 (#13/14)
Recording and Mixing Engineer: 加藤弘之
Produced by 加藤弘之
仲間やファンからは親しみを込めて“ソンコ”さんと呼ばれているようだが(本名は、もちろん“タカコ”)、去る2006年2月には銀座ヤマハホールでジャズライフ50周年コンサートを開いた大ベテランである。数ヶ月前に新作『ソフトリー・アズ・アイ・リーヴ・ユー』を紹介させていただいたマーサ三宅姐の場合も1933年生まれと明記させていただいたので、上野姐の場合も 1936年生まれと明かさないと不公平だろう(ネットにも公開されている公知の事実でもある)。生まれは横浜。横浜シーサイドクラブでジャズを歌い始め、当時の多くのジャズメン同様、米軍キャンプを主戦場としていたとある。キャンプ巡りの経験を持つミュージシャンは誰もどっしり腰が据わっていて、少々のことではへこたれない。
これだけのベテランにしては、現在CDとして入手できるアルバムは本作を入れて4枚と極めて少ないことに驚くが、それは彼女の唱法が余りにもスケールが大きく、また自由闊達でライヴでこそそのスリリングな魅力を100%堪能できるという点にも一因があるようだ。
タイトル曲にもなっているオープナーの<It’s De-Lovely>はコール・ポーターの1936年の作品。ピアノのイントロから快適なテンポに乗ってヴォーカルが滑り出す。充分な貫禄だ。重量感もたっぷり。4駆でオフロードをぐいぐい走り廻る手応えといったらよいだろうか。<ドゥ・ユー・ノウ・ホワット・イット・ミーン・トゥ・ミス・ニュー・オリンズ>から<アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー>の流れで尊子姐の魅力が100%開花する。野太い声で情感たっぷりに歌うヴォーカルに溜めにためたピアノが艶かしくまといつく。ライヴでは客席から期せずしてイェー!の声がかかる聴かせどころだ。低音からすくい上げていくところのヴォリューム感!身体全体が楽器となって響き渡る。全体を通してケレン味のないこのストレート感は全盛期の江夏豊投手の豪速球を見る思い。おそらく彼女は真っ正直でひたむきな人生を歩んできたのだろう。そんな思いに駆られるひとときを過ごした。
彼女を支えるメンバー。ベースの片山勝義は彼女の伴侶でもある。ピアノの高浜和英は北村英治のグループなどで活躍するベテランで、弾き語りを得意とする。ドラムの広瀬潤次は椎名豊を始め多くのグループでお馴染みの硬軟自在の人気者。それぞれがそれぞれの役どころを抑え、しっかりサポートしている。
上野と本田竹広のコラボレーションはよく知られるところで、新作での共演も上野の強く望むところだったが、本田はその録音を待たずして2006年1月 年、惜しくも先立ってしまった。その思い余りに強く、本作の#13<モナ・リザ>と#14<ア・チャイルド・イズ・ボーン>には、本田がピアニストを務めた彼女の2作目のアルバム『クローズ・ユア・アイズ!』(1997) のアウトテイクを採用、ファンの渇望が満たされることとなった。
わずかの破綻はライヴ感を優先させるための“スタジオ一発録り”への果敢な挑戦という潔さで充分カバーされている。
文字通り“ワン&オンリー”上野尊子の豪快な新作である。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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