#  667

北島直樹/アローン&トゥギャザー
text by Keiichi KONISHI

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『北島直樹/アローン&トゥギャザー』
T-TOC XQDN-1023 ¥2,900(税込)

1. 雨上がりの街 (N.Kitajima)
2. オール・ザ・シングス・ユー・アー (J. Karn)
3. 桜の樹の下で (N. Kitajima)
4. オブリヴィオン-忘却- (A. Piazzolla)
5. ナルディス (M. Davis)
6. 港が見える丘 (T. Azuma)
7. アローン・トゥギャザー (A. Schwartz)
8. 恋に恋して (R. Rodgers)
9. リズマニング (T. Monk)
10. 子供の情景「詩人のお話」~「異国から」(R. Schumann)
11. ケルティック・サムハイン (N. Kitajima)
12. ラフティング・ザ・ロッキー (N.Kitajima)
13. カントリー・ライフ (N. Kitajima)
14. 夕暮れに... (N. Kitajima)

北島直樹 Naoki Kitajima (p)
山口真文 Mabumi Yamaguchi (s.s) on #1/2
加藤真一 Shinichi Kato (b) on # 5/6
川村竜 Ryu Kawamura (b) on # 9/10
土屋潔 Kiyoshi Tsuchiya (a.g) on # 12/13

Recording: 09.11.04〜05 @ T-TOC STUDIO
Recording, Mix & Mastering: 金野 貴明
Supervisor: 小西 啓一

 09年度(第22回)ミュージック・ペンクラブ(音楽ジャーナリストの団体)音楽賞のポピュラー部門「録音・録画作品賞」(日本人アーティスト)賞を獲得した、マーサ三宅の『ソフトリー・アズ・アイ・リーブ・ユー』を始め、数々の意欲的なアルバムを発表し続けている、新興の“T−TOC”レーベルから、ピアニスト、北島直樹のニュー・アルバムが発表された。彼にとって何と12年振りになる、2作目のリーダー・アルバムだと言う。“女子ジャズ”時代のトップを疾駆する人気の寺井尚子ユニット、その中心メンバーとして大活躍の稀代の才人ピアニスト&アレンジャーだけに、こんなに長い間リーダー作が出ていないとは、かなり意外な感じもあるのだが、寺井グループの活動に専念したいと考え、幾つかのレコーディング申し入れを辞退するうちに、こうなってしまったのだと言う。そんな彼がオリジナルなども貯まり、そろそろ…と考えていた矢先にアルバム制作の提案があり、喜んでそれに応じたと言う次第の様だ。それだけにこの才人の、12年間と言う長い間の想いの全てが凝縮され、意欲的でありながらその全体像が優しげに無理のない形で浮かび上がる、素晴らしい作品に仕上がっている。北島自身もあるインタビューでその心境をこう語っている。“本当に命がけと言うか、これが最後になってもいい、これで死んでもいいかな…、とそんな思いがこのアルバムには込められています。”と…。

 新作のタイトルは『アローン&トゥギャザー』。あのアーサー・シュワルツの名品<アローン・トゥギャザー>も、ピアノ・ソロで優雅に綴られているのだが、タイトルはアローン(ピアノ・ソロ)とトゥギャザー(デュオ)で、全編が構成されていることを意味している。そのデュオ相手も、サックスの山口真文、ベースの加藤真一と川村竜、ギターがフォーク畑の土屋潔と、それぞれの曲想によって“この人しかいない”と、自信を持って彼が選び取った最適な人選(2曲ずつ)。中でも久々に音を聞いた山口のソプラノ・サックスが、圧巻の存在感で、オリジナルの“雨上がりの街”と“オール・ザ・シングス・ユー・アー”の2曲での、北島〜山口の親和性と緊迫感溢れる対話は感涙ものだ。また、若手随一の豪快派、川村のベースと北島の絡みは、あのペトルチアーニ〜ニールス・ペデルセンの究極デュオを思い起こさせる様な所もある。

 ジャズ・ピアニストとしての北島の、スイート(甘美)にしてビター(手応えある)な珠玉のピアニズムは、ビル・エバンスの<ナルディス>とセロニアス・モンクの<リズマニング>、この2曲のジャズ巨匠のオリジナルに象徴されている。しなやかで軽やかでいながら、いくらか翳も感じさせるそのプレイは、ジャズ・ピアニストとしてのしたたかな実力を再認識させるに充分なものと言えよう。ただ彼はピアニストとしてだけでなく、作・編曲者としても超一流の力量の持ち主で、ここでも魅力的なオリジナルが並ぶが、冒頭の<雨上がりの街>とラストを飾る<夕暮れに>が印象深い。特に後者は、北島の少年期=昭和30年代の匂いが濃厚な佳品で、その口ずさみたくなる様なノスタルジックな親しみ易いメロディーは、なんとも心に染み渡るもの。ジャズ版“3丁目の夕日”と言った感じで、ぼくらおじさんファンにはいささか“涙ちょちょ切れる”(古いねー)思いも強い。

 最後にもう一つこのアルバムの魅力を付け加えると、そのレパートリーの多彩さ。今まで挙げたオリジナルやスタンダード、ジャズ・オリジナルの他に、ここではモダン・タンゴの鬼才、ピアソラの<忘却>、そしてシューマンの『子供の情景』の<詩人のお話><異国から>、そして何と昭和歌謡の代表曲<港の見える丘>までが収録されているのだが、それらが見事な統一感を保ってアルバムを彩っているのである。これぞ北島マジックと言った感じで、才人ならではの所業と言うべきだろう。どの曲も聴きやすいものながら深みを併せ持つ、“女子”ファンから“ジャズ上級者”までをも、満足させられる逸品とぼくは聴いた。(小西啓一)

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NEW1.31 '16

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