#  668

クリス・ボッティ/クリス・ボッティ・イン・ボストン
text by Masayuki KASE

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『クリス・ボッティ/クリス・ボッティ・イン・ボストン』
ユニバーサル・ミュージック ¥2,500(税込)

クリス・ボッティ(tp)
マーク・ホイットフィールド(g)
ビリー・チャイルズ(p)
ロバート・ハースト(b)
ビリー・キルソン(ds)
ボストン・ポップス・オーケストラ

ゲスト
スティング、キャサリン・マクフィー、ジョシュ・クローバン、スティーヴン・タイラー、ジョン・メイヤー(vo)
ドミニク・ミラー(g)
ルシア・ミカレリ(vln)
ヨーヨー・マ(cello)

1. アヴェ・マリア
2. ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ
3. セヴン・デイズ (feat. スティング & ドミニク・ミラー)
4. エマニュエル (feat. ルシア・ミカレリ)
5. アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン (feat. キャサリン・マク フィー)
6. ニュー・シネマ・パラダイス (feat. ヨーヨー・マ)
7. ブロークン・ヴァウ (feat. ジョシュ・クローバン)
8. フラメンコ・スケッチズ
9. グラッド・トゥ・ビー・アンハッピー (feat. ジョン・メイヤー)
10. ハレルヤ
11. スマイル (feat. スティーヴン・タイラー)
12. ルーズ・マイ・フェイス・イン・ユー (feat. スティング & ドミニク・ミラー)
13. タイム・トゥ・セイ・グッバイ

録音:2008年9月18日&19日 @ボストン・シンフォニー・ホール

 このアルバムはジャズ・ファン以外の人にも聴いてもらいたい。特にこれまでジャズにあまり関心がなかったり、ジャズに少しだけ興味を持ち始めた女性にはお薦め! クリス・ボッティは1962年に米国オレゴン州ポートランドで生まれたトランペッターで、“トランペットの貴公子”と称されている。幼少期はクラシック・ピアノの講師だった母親の影響でピアノを弾いていたが、10歳でトランペットを始め、マイルス・デイヴィスに憧れてプロの道に進むことを決意した男。インディアナ大学時代にはジョージ・コールマン(ts)やデイヴィッド・ベイカー(tb)等に師事し、トランペットはウディ・ショウから学んでいる。1995年に1stアルバム『First Wish』をリリース後、これまで9枚のアルバムを出しており、この作品が10作目となる。

 2008年9月18日〜19日にボストン・シンフォニー・ホールで行なわれたライヴを収録した本作だが、この豪華絢爛なゲスト陣の顔ぶれに注目して欲しい。スティング、ヨーヨー・マ、スティーブン・タイラー、ジョン・メイヤー…おまけにボストン・ポップス・オーケストラがバックで演奏しているというから凄い。ど真ん中のジャズ・グルーヴ感とスイング感溢れる白熱のライヴ演奏を期待している人にはもの足りなさを感じるかもしれないが、セッション・ミュージシャンとしてボブ・ディランやアレサ・フランクリン、チャカ・カーン等と共演し、ポール・サイモンのレギュラー・メンバーとしてツアーにも参加するなど、ジャズ畑以外でも活躍してきたからこその人脈なのであろう。2005年発表のアルバム『To Love Again』で共演したスティングとは、スティングのオリジナル「セヴン・デイズ」と「ルーズ・マイ・フェイス・イン・ユー」の2曲でドミニク・ミラー(g)とともに共演しているが、ヴォーカルをバックにしたクリスのトランペットは、同じくロック・シーンから参加しているジョン・メイヤーとの「グラッド・トゥ・ビー・アンハッピー」やスティーヴン・タイラーとの「スマイル」でも聴ける。ヴォーカリストの魅力を際立たせながらも自身の個性を楽曲に散りばめ刻み込むというツボを心得た名演を披露している。また、本作の「ブロークン・ヴァウ」でクリスと共演しているジョシュ・クローバンをはじめ、ジェスロ・タル(Jethro Tull)とのコラボでもお馴染みのヴァイオリン奏者=ルシア・ミカレリと共演した「エマニュエル」も素晴らしく、臨場感溢れる弦楽器との美しい共演にも感動させられる。そして、本作の中で個人的に一番気に入っているのが、2008年のクリスマスCDでもコラボした世界を代表するチェリスト=ヨーヨー・マとの「ニュー・シネマ・パラダイス」だ。モリコーネの美しい楽曲を奏でるヨーヨー・マの調べだけでも鳥肌ものだが、クリスのトランペットも見事なまでに楽曲に花を添えている。そして、クリスの憧れだったマイルスの「フラメンコ・スケッチズ」の名演も聴き逃せない。マイルスを意識しきったサウンドにクリスの潜在的なジャズ魂を見た気がする。加えて、バンドのベースに懐かしいロバート・ハーストの名が記されているのも嬉しい限りだ。

 スーパースターたちとの共演でクリスのトランペットが最高の輝きを放ち、ビルボードでコンテンポラリー・ジャズ・チャート1位を記録した本作。まさにジャンルを超えた美しい演奏会と呼ぶに相応しい一枚。最後に、本作に心が揺さぶられた女性の方への補足情報として、クリス・ボッティは端正な顔立ちでも定評があり、テレビやドラマで俳優デビューも果たしている他、2004年の米PEOPLE誌の最も美しい50人の内の1人に選ばれている。(加瀬正之)

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