#  672

FRESH FROZEN / Fresh Frozen
text by Nobu Stowe

『FRESH FROZEN / Fresh Frozen』
El Gallo Rojo Records 314-35

El Gallo Rojo Records 314-35

FRESH FROZEN:
Achille Succi bass clarinet, alto saxophone, clarinet
Oren Marshall tuba
Christopher Culpo piano

JACK-IN-THE-BOX (Oren Marshall)
SBACH (Achille Succi)
SONIC LUBE (Fresh Frozen)
WABI (Achille Succi)
SMALLIPS (Achille Succi)
DICCI COME (Achille Succi)
SOUL BLISTERS (Fresh Frozen)
CULPOGRAPHY (Christopher Culpo)
QUAIL STOMP (Achille Succi)
FRESH FROZEN (Fresh Frozen)
COLETTE (Achille Succi)

Recorded at Cat Sound Studio, Badia Polesine, on July 21st-22nd ,2009
Recording Engineer: Mario Marcassa
Mixing Engineer: Enrico Terragnoli
Mastering Engineer: Ivan Rossi
Produced by Fresh Frozen y el conjunto de Gallo Rojo

マルチ・リード奏者=アキレ・スッチの新作が、El Gallo Rojoレコードからリリースされた。チューバ奏者のオーレン・マーシャルと、ピアニストのクリストファー・カルポからなるトリオ“FRESH FROZEN”のデビュー・アルバムである。知性が光る前衛を室内楽的手法でクールにまとめ上げた“チェンバー・フリー”の好サンプルだと思うので紹介したい。

詳しくは、彼とのインタビュー(http://www.jazztokyo.com/interview/v75/v75.html)を参照して欲しいが、アキレとは、コンサートや録音で何回か共演する機会があった。多種の担当楽器を高度なレベルでこなす実力もさる事ながら、多様な音楽に瞬時に対応できる柔軟さも、高評価に値するミュージシャンだ。自身のプロジェクトの他、現在イタリアのジャズシーンを中心に、前衛/ストレート・アヘッドなジャズから、ポップ・ミュージックまで多忙を極める人気の理由も十分理解できる。

オーレン・マーシャルはイギリス出身で、1986年結成の管楽器アンサンブル“ロンドン・ブラス”やロンドン室内楽団の一員としてクラッシック畑で活躍する傍ら、ジャズ・アーティストとしての活動も活発にこなして来ている実力者。ジョン・テイラーp、ケニー・ウィラーtp、デレク・ベイリーg、ポール・ドゥンモールsax他の英国ジャズの重要ミュージシャンとの共演の他、電子音楽を取り込んだソロ演奏等の興味深い活動を行って来ている。また、ロンドンにある王立音楽院でも教鞭を取っている。

クリストファー・カルポは、アメリカ出身だが、91年よりパリを拠点に活動している。マーシャルと同じように、ジャズとクラッシックの両分野で活動している音楽家だ。ピアニストとしても達者だが、作曲家として確かな地位を築いているようで、彼の作品は、ロンドン交響楽団他に演奏されている。
アルバム『Fresh Frozen』 は、マーシャルのソロ・チューバ演奏〈JACK-IN-THE-BOX〉で幕を開ける。トロンボーンの異才=アルバート・マンゲルスドルフで有名な“マルチ・フォニック”や肉声を吹奏に取り入れた“ヴォーカリゼーション”を効果的に使った特殊奏法を駆使している。しかし、ギミックに聴こえないのは、音楽の本質を良く理解しているからだろう。

その後は、リード楽器(バス・クラリネット/アルト・サックス/クラリネット)/チューバ/ピアノと言う変則的な編成を生かした、個性的な音楽性を堪能できる。

準じた編成のトリオと言えば、1958年度のニューポート・ジャズフェスティバルを撮ったドキュメンタリー映画の傑作『真夏の夜のジャズ』(バート・スターン監督)で印象に残る演奏を聞かせてくれる、ジミー・ジェフリーreeds/ボブ・ブルックメイヤーvalve trombone/ジム・ホールgのトリオが思い出される。しかし、「FRESH FROZEN」の音楽性は、ジェフリーが、ポール・ブレイpとスティーブ・スワローbと1961年に結成したトリオにより近い。

室内楽的アンサンブルを前衛に持ち込んだ新生ジェフリー3は、ヨーロッパの“フリー・ミュージック”シーンに多大な影響を与え、マンフレート・アイヒャーの“ECMサウンド”の源泉にもなった事から、「FRESH FROZEN結成のインスピレーションか?」とアキレ本人に聞いてみた。しかし、ジェフリーのプレイは大好きだが、前述の2トリオの作品は未聴との事。だが、カルポの他のトリオ(サックス奏者のジャン=チャールス・リチャードと、ベース奏者のピーター・ハルバートから成る)の音楽性にも、ジェフリー3の“影”が聞こえるので、間接的な影響はあるだろう。勿論、ジェフリー3のコピーでは断じて無く、より広範囲の音楽からの影響を自らの音楽に昇華させている。

具体的には、アキレの他作品でも顕著に聴かれる、対位法を生かしたアンサンブルが印象的だ。カルポの音楽性か、バルトーク他の近代クラッシック音楽からの影響も、上手く構造的に反映されている。このトリオ最初の共演時の録音という事もあり、少し瞬発力/自発性に乏しいか? しかし、傾聴に値する作品であるので、是非トライしてみて欲しい。(Nobu Stowe /須藤伸義)

*残念ながら『FRESH FROZEN ミ Fresh Frozen』は、日本国内での入手が難しいようであるが、レーベル・ホームページで通販可能:

EL GALLO ROJO RECORDS (www.elgallorojorecords.com)

*各ミュージシャンの詳細は、以下のホーム・ページで:

Achille Succi (www.myspace.com/achillesucci)
Oren Marshall (http://orenmarshall.com)
Christopher Culpo (www.myspace.com/christopherculpo)

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