#  673

NETSAYI ネッサイ/Monkey's Wedding
text by Izumi HONGO

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ビーンズ・レコード/アオラ・コーポレーション
BNSCD-544 ¥2,520(税込) 4月下旬発売予定

1. Punch Drunk
2. Chosen Ones
3. Weaves and Magazines
4. Toy Soldiers
5. Money Drum
6. Ishe Komborera Afrika
7. Teenagers
8. Lueremos Saber
9. Top Cop
10. Georgie
11. Don't Wake Me Up
12. Jacarandas

昨年来日を果たした歌姫、チウォニーソを輩出したジンバブエより再び、輝けるスターの登場である。今年37歳にあるディーヴァ、Netsayi(ネッサイ)である。
日本人の容姿や声のほめ言葉のひとつに、日本人離れした、という表現がある。ネッサイの場合、ジンバブエ人離れした歌声とでもいうのか、垢抜けた奥行きのあるソウルフルな歌声は、しかしながら多種多様な作物をたわわに実らせるという広大で肥沃なジンバブエの大地を思わせる貫禄をもたたえている。
ネッサイは本名Netsayi Chigwendere、ジンバブエ独立前の1973年ロンドン生まれ。80年に独立を果たしたばかりのジンバブエに戻る。他のアフリカ諸国と同じように、ジンバブエも畑仕事に、家事に、お祭りに、日常の様々なシーンに音楽は欠かせないそうだ。音楽といったって、何もCDプレーヤーや今ならデジタル・プレーヤーで聴いたり、ライブに出かけたり、とかばかりじゃない。畑仕事中の鼻歌だったり、テンポよく杵うちするための手拍子だったり、雑音だらけのラジオ放送だったり、生活のそこかしこに音楽が溢れているのがアフリカの日常だ。ネッサイもまた例にもれず、多感な時期を日々の音楽と共に過ごし彼女の音楽人生の礎を築いた、とあるインタビューで述懐している。
とはいえ、それだけならその他大勢の単なる音楽好きなジンバブエ人達と変わらない。2000年に再びロンドンに居を構え、様々なバンドのサポートや、音楽学校で本格的に音楽を学び始め、アーティストとしてのキャリアを本格的にスタートさせる。また、同じ時期にジンバブエの伝統楽器、ムビラ(親指ピアノ)の演奏をロンドン在住の同郷の名人より修得。
さて、誰もが知る通り、ロンドンは音楽のるつぼ、ロック、ジャズ、クラシック、レゲエ、クラブ音楽、ポップス、そして世界中の音が溢れている都市である。そんな音楽的環境下で、ネッサイは柔軟に貪欲に様々な音を吸収し、自分の音楽スタイルを模索していったと思う。
この『Monkeys' Wedding』では、どちらかというと、比較的控えめにジンバブエの音(ハンドクラッピング、コーラス、パーカッション類、そしてクレジットにはないけれどムビラもしくはムビラを模倣した演奏、etc)が用いられて、ロンドンで得た他の様々な音をより積極的に取り入れることによって、個性的で洗練されたポップスに仕上げられている。
1曲目の<Punch Drunk>だけを聴けば、すぐにはアフリカ出身のアーティストの音楽とは気が付かない。とはいえ、この曲もよく聴けば、あるフレーズの最後にショナの伝統的な独特の震わせた声が一瞬入っていたり、英語曲ながら3曲目<Weaves and Magazines>はお隣南アフリカのズールーのゴスペルっぽい1曲だし、5曲目<Money Drum>のバックの演奏やコーラスは「マホラティーニ・マホテラ・クイーンズ」を彷彿とさせるアフリカン・ポップスだし、9曲目<Top Cop>はショナのムビラの伝統的な旋律がバックの演奏として取り入れられている。アフリカを主張しすぎず、かといって単にヨーロッパナイズされただけのポップスでもなく、丁度良いミックス加減が、ネッサイのなせる技、というところか。
例外は唯一ショナ語で歌っている、6曲目、<Ishe Komborera Afrika>はジンバブエ独立時の国家、南アフリカ、タンザニア、ザンビアの現国家である。独特のアカペラのコーラスが純粋で美しく、この曲をアルバムの真ん中に位置することで、唯一この曲によってジンバブエをアピールし自らのアイデンティティを力強く訴えているような気がするのだ。
なんといってもネッサイの奥行きのあるボーカルはピカイチ。バックにはいろんな音楽スタイルを取り入れながらも、どの曲も彼女のボーカルが生きているのが良い。(本郷 泉)

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