# 674
MIZUHO & タイガー大越/スターズ・アンド・ア・ムーン
text by Kenny INAOKA
house of jazz HOJ-100326 ¥2,800 (税込)
Mizuho (vo)
タイガー大越 (tp,flgh)
レオ・ジノヴァセ (p,synth)
ジャスティン・パーティル (b)
ランディ・ルニョン (g)
ジェームス・ウィリアムス (ds)
小川慶太 (perc)
1.オーバー・ザ・レインボウ
2.コルコバード
3.マイ・フェイバリット・シングス
4.ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア
5.スターズ・アンド・ア・ムーン
6.メモリーズ・オブ・ユー
7.ドリーム
8.ワルツ・フォー・デビー
9.ア・タイム・フォー・アス
録音:ピーター・コントリマス@PBS , Westwood, MA, 1.13~16, 2010
Mix:ピーター・コントリマス@PBS, Westwood, MA, 1.17~18, 2010
マスタリング:アラン・シルヴァーマン@Arf ! Digital NY, NY, 1.24,2010
プロデューサー:タイガー大越
原田和男氏の札幌の雪も溶けんばかりの熱いライブ・レポートの後を受けるのは少々荷が重いのだが、やはりこの素晴らしいアルバムを紹介しないまま素通りして行くわけにはいかないのだ。2年前に『翼 tsu-ba-sa』というアルバムを通じてMIZUHOという素晴らしいシンガーを紹介してくれたのはトランペッターのタイガー大越だった。この新作も前作と同様、MIZUHOの意向を汲みながらタイガーが全曲をアレンジ、プロデュースを手掛けているのだが、今回はアルバム・タイトルが示す様にがっぷり4つの本格的なコ・リーダー作。
困ったことになかなか文章を先に進めることができない。2、3度聴き通してパソコンに向ったのだが演奏が始まるとつい聴き込んでしまうのだ。聴き慣れたスタンダードが並んでいるとはいえ、タイガーの趣向を凝らした編曲とMIZUHOの春の雪を思わせる湿り気を含んだヴォーカルに耳が虜になってしまう。「趣向を凝らした」編曲と書いたが、むしろかつての名曲を今の時代に甦らせたコンテンポラリーな編曲というべきなのだろう。そこにジャズのジャズたる所以がある。ここでもエリントンの名言、「ジャズに名曲なし、名演あるのみ」が思い出されるのだ。ボストンのバークリー大で世界から集まる才能にトランペットとアンサンブルを講義しているタイガーならではの今日性が際立つのだ。MIZUHOは“殺伐とした今の世の中に、なにか人々の心に響く子守唄のような作品”を創り上げたかったようだが、“心に響く”ことは間違いないが、人々を寝かしつける“子守唄”になったかどうか。少なくとも、少々のことでは驚かない還暦を過ぎた僕は彼らの演奏に刺激を受け過ぎ頭が冴え渡っている。CDのキャッチフレーズに“宇宙の子守唄”とあるが、それなら分かる。“宇宙の子守唄”、あるいは“21世紀の子守唄”が正しい。タイガーをその気にさせたMIZUHOという存在も凄い。『翼 tsu-ba-sa』でも指摘したことだが、MIZUHOとタイガーの感性のしなやかさ。そして、ハイ・レヴェルで結果を出す音楽性と技術。
テンポ・ルバートで始まったMIZUHOのスキャットがカウントを経てイン・テンポになる十数秒の不思議なスリル。ジャズ・ワルツの<虹の彼方に>でしっかりハートを掴まれ、アコーディオンを思わせるメロディオンによるイントロが魅力的なスロー・ボサの<コルコヴァード>。セカンド・コーラスは何と日・本・語。スネアが叩くマーチのようなリズムで始まったワルツの<マイ・フェイヴァリット・シングス>。ギターとピアノの刺激的なソロで眠りかけた脳が間違いなく覚醒する。前作に続いて今作もビートルズから1曲。ビートルズは永遠に不滅です。タイガーのオリジナル<スターズ・アンド・ア・ムーン>。これぞ、まさしく“宇宙の子守唄”。たっぷりリヴァーブのかかったタイガーのトランペットがMIZUHOを連れて宇宙を回遊する。タイガーの『プレイズ・スタンダード』(Geneon)に痺れたファンはこの<メモリーズ・オブ・ユー>にも痺れるだろう。あの印象的なアレンジにさらにMIZUHOのヴォーカルが加わり、タイガーのミュート・トランペットともつれ合いながら...。<ワルツ・フォー・デビー>が一番スインギーでジャジーなトラックだなんて。またまたメロディオンが泣かせるエンディングの<ア・タイム・フォー・アス>。『ロミオとジュリエット』(同名の映画のテーマ)さながらにドラマチックなエンディング。珍しくMIZUHOが歌い上げる。クラシックの子守唄同様ワルツが多い選曲だけど、このアルバムを子守唄に寝付ける人は相当な“鈍”では?(営業妨害になったらご免なさい)。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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