# 675
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇/rostbestadige Zeit
text by Kazue YOKOI
doubtmusic dmf-132/133 ¥3,150(税込)
アクセル・ドゥナー(tp)
井野信義(b)
今井和雄(g on disc 1、disc 2-1,3,5)
田中徳崇(ds on disc 2)
disc 1
1. for
2. of
3. or
4. if
disc 2
1. background beneath
2. schneller-langsamer
3. nicht-weit
4. viaduct
5. weit-nicht
6. foreground behind
井野信義がアクセル・ドゥナー来日時に今井和雄と田中徳崇を誘って録音した音源が2枚組CDとしてリリースされた。一枚目は井野、今井、ドゥナー、によるフリー・インプロヴィゼーション、二枚目はカルテットまたはトリオでドゥナー作品を演奏したもので、ルディ・マハールらとのバンド、「ディー・エイントトイシュング」(「失望」の意味)の演奏にも通じるものがあるプログレッシブなジャズ。
アクセル・ドゥナーはヨーロッパのジャズ・即興音楽シーンで最も独創的かつ実験的なトランペッターである。楽音を用いない特殊奏法による即興演奏、あるいはリダクショニスト(註1)として一部のインプロ・ファンには知られているところだが、ジャズ・トランペッターとしての側面はほとんど知られていない。ドゥナーの凄さはそのような要素が彼自身の中で繋がっていて、音楽的に異なることを同居させてしまうところにある。ジャズ・ミュージシャンのように吹いた後で特殊奏法で吹くというのは難しい技だ。にもかかわらず、音色や印象の異なったサウンドがフリー・インプロヴィゼーションでもジャズ演奏の中でも必然的に出てくる。そこがキモであり、今日的なのだ。だが、このような演奏は共演者を選ぶ。それを実現させたドゥナーと井野、今井、田中の邂逅は滅多にない出会いだったことがこの盤から伝わってきた。
一枚目のフリー・インプロヴィゼーションは、昨今のリダクション的なインプロからすると旧式なもの、伝統的なフリーといわれそうだが、新しいか旧いかによって評価が決まるものではないし、その重層的で多彩なサウンド展開には今日性を感じる。三者がハイテンションで絡み合う3曲目<or>が白眉だが、それとは対照的にノン・エモーショナルなドゥナーのバリエーションの豊かな特殊奏法、それに井野と今井が打楽器的、点描的な演奏で答えるところから始まり、静かなノイズ音が切断されながらも変化しつつ持続する4曲目<if>もまた聴きものである。
ジャズならではの醍醐味をもつ<background beneath>で始まる二枚目は、ジャジーな味わいのある作品もあればアブストラクトな作品もある。4曲目<viaduct>と6曲目<foreground behind>は「ディー・エイントトイシュング」のCD(註2)にも収録されていた作品。奇しくもその両者を聴き比べることになり、「ディー・エイントトイシュング」はいかにルディ・マハールの音楽嗜好が色濃く現れたバンドかということを再確認した。「ディー・エイントトイシュング」での演奏は、ソリッドできっちりとした構築性があり、即興演奏もまた彼のコンセプトに沿っているものだったのだ。しかし、ここでは自由な空間がふわりと広がっている。これはベースの井野とドラムスの田中のなせる技。二管との違いはあるのだろうが、トランペットもまたのびのびと聞こえる。四者四様の楽器演奏における技量の高さとイマジネーションの豊かさがもたらした快演が二枚目には記録されている。ドゥナーのジャズ・トランペットは一級品、そして360度開かれた空間ゆえに時折繰り出すその特殊奏法もまた妙にハマっている。ジャズはどこか刺激的なところがなくてはいけない。同時代性という観点に立つならば、これこそ紛れもない「今」のジャズだ。
このような録音が実現したのも井野信義の慧眼があってこそ。ピチカートとアルコを自在に使い分け、その度量の大きさでジャズとフリー・インプロヴィゼーションを行き来しつつ、広がりのある空間を創る。また、今井のフリー・インプロヴィゼーションでの技量はギタリストでは随一のものだが、二枚目1曲目で聴かせるジャズ・ギターもスタイリッシュでカッコいい。ドゥナーが共演を希望したという田中は、ゆったりとしたパルスを繰り出せ、即興演奏にも対応できる日本では希有なドラマーであり、ここでもその存在感を示している。
以前、ドゥナーに話を聞いた時に、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハの師でもあった現代音楽の作曲家ベルント・アロイス・ツィンマーマンが好きだということを言っていた。「『時間』はとても重要、同じ時間にいろいろなことが起こる。それは面白いアイデアだと思う」と。このCDを聴いて、なるほどと思った。さまざまな場面でそれが援用されていることが窺(うかが)える。
久しぶりにこれはという音盤に出会えてとても嬉しい。ハード・コアなジャズや即興演奏に興味がある人には特に勧める。推薦盤!(横井一江)
註
(1) 『Die Enttaeuschung』(Intakt CD166)
(2) ベルリン・リダクショニズムという言葉が流通したのだが、その一人として挙げられていることについてアクセル・ドゥナーに尋ねたことがある。このような答えが帰ってきた。「ベルリン・リダクショニズム?ちょっと違うよ。名前はフレームとかボックスみたなものだけど、それに支配されかねない。その名前は使ってほしくない。混乱させられるね。私はリダクショニストじゃないし、いろいろなことをやっている。普通に音楽家といってほしい」。
追悼特集
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
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#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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