#  676

早坂紗知+永田利樹New York Special Unit/イースト・ヴィレッジ・テイルズ〜Live in New York
text by Kenny INAOKA

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NBAGI Records N009 ¥2,625 (税込)

早坂紗知(as,ss)
定村史朗(e-vln)
永田利樹(e-b/a-c)
フェローン・アクラフ(ds/1,2,4,6,7)

1. Dakar Trip (T.Nagata)
2. Bass Snake (T.Nagata)
3. Iguaz Walts (T.Nagata)
4. 白夜 (Sachi H.)
5. Petal Shower (Sachi H.)
6. Lycoris (T.Nagata)
7. Children Children (Sachi H.)

1,2,4,6,7:
@Local 269, NYC 9.21, 2009
3:
@The Stone, NYC 9.11,2009
5:
@No Trunks, 国立10.09, 2009

仕事の関係で欧米を中心にいろいろな都市を訪れる機会があったが、ニューヨークは格別だった(その次は、ベルリンかな)。とくに70年代と80年代。ピリピリするような緊張感とまさに何かが生み出されてくる瞬間を待つ期待感。何かを生み出そうとする強い意志と必死さ。あの狭いマンハッタン島のしかも“ヴィレッジ”と名付けられたエリア。さまざまなアーチストが集まり、せめぎ合い刺激し合いながら、アイディアがアイディアを連鎖反応的に生み出して行く。

大学卒業を目前に控えた永田利樹も1982年、この街に足を踏み入れ、「再びこの地に立てる仕事に就きたい」(関口義人氏のライナーノート)と思ったのだという。7年後の1989年、ジャズ・ベーシストとなった新婚の永田はサックス奏者の早坂紗知を伴って再びその地に立った。人生の伴侶であり、音楽の同志でもある早坂にジャズ・ミュージシャンとしてのスピリットの原点を共有させたかったのだろう。そして、2009年は20年目の節目の年だった。
7歳からヴァイオリンを始めた定村史朗(写真で見るとボディのないフィンガーボードだけのエレクトリック・ヴァイオリンを演奏しているようだ)は、1984年に渡米、ボストンのバークリー音大でジャズ・ヴァイオリンを学び、NY市立大学芸術学部音楽科を卒業。NYにあって、「ジャズの枠を突き抜けて、現代の感覚により合った新しい 音楽ジャンルを模索している」(自身のサイト)という。彼もまたニューヨークを必要としているアーチストなのだ。
この3人を核に山下洋輔のNYトリオでお馴染みのドラムス、フェローン・アクラフがLocal269でのギグに加わる。フェローンもふたりとは古くからの付き合いという。

しかし、20周年のNYとはいえふたりに感傷に耽っている暇(いとま)はない。 NYのオーディエンスは厳しい耳を持つ。しかも、録音を意図してふたりはNYに“乗り込んで”きたのだ。CD化された演奏は無差別にリスナーの耳に曝(さら)されるのである。その意気込みを示すかのように1曲目から早坂のアルトが激しく咆哮する。永田がアップライトのイタリア製エレクトリック・ベースAlter Egoからヘヴィなサウンドでパターンを繰り出す。2曲目、ユニゾンでテーマを提示したあと、早坂のソプラノと定村のヴァイオリンが激しい鍔(つば)迫り合いを見せる。ダウンタウン・シーンの主、ジョン・ゾーンの牙城The Stoneでのギグから1曲だけ収録された3曲目、ドラムスを除いた3者の冷徹な演奏が緊張感を漲らせて印象的。エフェクターのON/OFFでヴァイオリンが見事な場面の転換をみせる。4者が全力で東欧のトラッドを楽しんだあと、場面は一転日本に移る。日本に思いを馳せたのか。永田のウッドベースがことのほか気持良い。ボウイングが6曲目へと続き、一瞬のワープが夢であったかのような錯覚。最後に早坂と定村のソロをたっぷり聴かせて幕を閉じる。

変幻自在の定村という強い援軍がいたとはいえ、打楽器やギターを外してあえて裸で勝負したふたりの潔さをまず評価したい。彼らの原点となったニューヨークに充分恩返ししたといえるのではないだろうか。なお、CDを通して彼らの思いを共有できるのはわずか500人だそうだ。(稲岡邦弥)

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