#  678

ジェシ・ヴァン・ルーラー / チェンバートーンズ
text by Masayuki KASE

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55RECORDS FNCJ-5540 ¥2,500(税込)

ジェシ・ヴァン・ルーラー(g)
ヨリス・ルーロス(cl, as)
クレメンス・ヴァン・デル・フィーン(b)


1. カウ・デイジー
2. ラヴソング・フォー・Y
3. ブロークン・キス
4. エヴリタイム・ウィー・セイ・グッバイ
5. サークルズ
6. ノルウェーの森
7. イージーゴーイング
8. 8月30日
9. ジャスト・イン・タイム
10. インティメート・ストレンジャーズ

録音:2009年9月21日 オランダ、スヘルトヘンボッシェ、デ・ドーンザール

 ヨーロピアン・ギター・ヒーロー=ジェシ・ヴァン・ルーラーの3年振りのリーダー・アルバムとなる本作。初めて彼の名を耳にした時はふとジャズ史に輝く名レコーディング・エンジニア=ルディ・ヴァン・ゲルダーみたいな名前だなあ…なんて思ってしまったが、それ以来そのいかにもギターが上手そうな響きの名前はしっかりと記憶に刻まれた。

 1972年にオランダ・アムステルダムで産声を上げたジェシは7歳でクラシック・ギターを始め、15歳の時に聴いたジョン・スコフィールドの『スティル・ウォーム』に衝撃&感動を受けたという。そして、1995年度『セロニアス・モンク・コンペティション』のギター部門で断トツ・満場一致で優勝! その時に審査していたミュージシャンこそ、ジム・ホール、パット・マルティーノ、パット・メセニー、そして、ジョン・スコフィールドだった。ジェシにとっては正にアメリカン・ドリームを体感した瞬間だったに違いない。1997年にファースト・アルバム『ヨーロピアン・クインテット』を発表した後、現在までの活躍振りは説明するまでもないだろう。本作同様に55RECORDSから2004年にリリースされた初ライヴ・アルバム『ライヴ・アット・マーフィーズ・ロウ』も素晴らしかったが、ベルツ・ヴァン・デン・ブリンク(p)とのデュオで挑んだ前作『探求〜デュオ』も感動的だった。毎回作品ごとに見事なまでの新境地を見せてくれるジェシの創作意欲には目を見張るものがある。

 『チェンバートーンズ』と題されたこの最新作は、フランス・プロヴァンス生まれのオランダ人でアルトの他にソプラノ・サックス、フルートも吹きこなすマルチ・リード・プレイヤー=ヨリス・ルーロスと、オランダ生まれのベーシストでクラシックとジャズ両ジャンルで修士号を得たという素晴らしい経歴の持ち主であるクレメンス・ヴァン・デル・フィーンという注目の新人を従えたドラムレス・トリオで挑んでいるが、今作も良い意味で一曲目から期待を外してくれる。いきなりガツーンと勢いあるナンバーで来るのか…と思いきや、一瞬にして広大で喉かな田園風景に誘われるかのような「カウ・デイジー」に心を奪われる。6曲目のレノン&マッカートニーの名曲「ノルウェーの森」といい、この感じ…ヨーロピアン・ジャズが持つ詩情が溢れるような美しい響きの中に感じるクールさ、何とも言えぬこのカッコ良さがたまらない。

 メンバーのヨリス(cl, as)は2008年に『ヨリス・ルーロス・デビュー!』で55RECORDSより日本デビューを果たし、クレメンス(b)も自己のバンド「Narcissus」の他、トゥーツ・シールマンス・カルテット等数多くのグループで活躍中だ。今はコンサート・ホールとして使われているそうだが、木の響きを最大限に生かすために元々教会だった場所で録音されたというだけあって、3人の音色の響きが本当に美しく、ナチュラルなアコースティック感が作品全体に広がる。全10曲中ジェシのオリジナルが3曲にヨリスが2曲、クレメンスも1曲とメンバーが手掛けたオリジナル・ナンバーにも注目して欲しい。お気に入りはジェシのオリジナル「カウ・デイジー」「サークルズ」に「ブロークン・キス」、そして、クレメンスのオリジナル「ラヴソング・フォー・Y」! 本作の資料に書かれていたように、ジミー・ジュフリー(cl, ts, bs)名義の作品でボブ・ブルックマイヤー(tb)とジム・ホール(g)のトリオで1958年に録音された名盤『ウェスタン組曲』を彷彿させる名演に仕上がっており、これを機に両作品を聴き比べてみても面白いだろう。

 6月には本作のレコーディング・メンバーによる来日公演も決まっており、ジェシの生ギターを体感するならこのチャンスは見逃せない!(加瀬正之)
関連サイト:
http://www.fiftyfiverecords.com/55records/

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