#  682

ATOMIC/Theater Tilters Vol. 1
text by Masahiko YHU 悠 雅彦

Jazzland 273339 - 7

Fredrik Ljungkvist (ts,bs,cl)
Magnus Broo (tp)
H計ard Wiik (p)
Ingebrigt H渓er Flaten (b)
Paal Nilssen - Love (ds)

1 . Green Mill Tilter
2 . Andersonville
3 . Fissures
4 . Murmansk
5 . Bop About

Produced by Atomic
Recorded Live at Theater Lederman (Stockholm) on October 6 th & 7 th , 2009

 去る4月に1年半ぶりの来日演奏を催したアトミックの新作である。新宿の「ピットイン」で久しぶりに聴いたこのノルウェイの5人組は、あたかも難解なパズルを解いて見せるようなスリル満載の鮮やかさで、誇張を承知でいうなら水飛沫をあげて驀進するカー・ラリー風コンビネーションを印象づける快演を披瀝したが、この新作はまさにその快演を再現したといっても過言ではないスリリングな演奏集。ちなみに、この新作はアトミックが来日公演のために携行したもの。日本でも現段階では海外盤の形でしか手に入らないだろうと思うが、一足早く紹介することにした。もう1つ付け加えれば、2枚セットながら第1集と第2集は別個の販売。どちらか一方だけを求めることもできるわけだ。この新譜紹介では第1集だけを取りあげるが、内容的には第2集も第1集と較べて甲乙付けがたい優れた出来映えであることを強調しておきたい。

 さて、この5人の演奏者たちはみなそれぞれに高度な演奏技法と知的センスに裏付けられたプレイを身上とする。2CDに収録された本作品のライヴ演奏でも中心となっているのは10分内外の比較的に長い演奏だが、たとえテーマ提示とそれに続くソロの応酬や展開で構成されている曲でも、かつてのフリー・ジャズの跡をなぞったような、通りいっぺんの安直な展開に堕すことはない。例えば、9分余のオープニング曲「グリーン・ミル・ティルター」、続く13分を超える「アンダーソンヴィル」、同じく9分余の第3曲「フィスーレ」を例にとっても、どれひとつとして構成が単純ゆえに聴いている途中でさじを投げる気になどまったくならない。まるで3段ロケットの噴射を思わせるヴェクトルの変化で肉迫する展開、といっていいだろうか。ロケットの噴射の変化がそのつどにドラマティックな場面転換を生みだすのだ。例えば、テンポが変わったとたんに風景が変わる、ニュアンスが一変する、という感じ。テンポがそのつど速くなったり、リズムが激しくなったりする「グリーン〜〜」とは逆に、急速調で開始する「フィスーレ」のように段階的に速度を落とす展開もある。これがどれほどスリリングな体験であるかはエキサイトする聴き手の反応ぐあいで推し量れる。本作のようにライヴであれば聴衆の興奮度が爆発したときには拍手や歓声が自然発生的に湧く。

 アトミックはフリー・ジャズのカテゴリーで縛った聴き方をしない方がいい。むしろ通俗的なフリー・ジャズとは一線を画すグループでさえある。ライヴではサックス奏者のフレデリク・ユングヴィストが中心に見えるが、実際には5者は対等。私はピアノのホーヴァル・ヴィークの演奏を高く買っているが、アトミックでは彼が自己のトリオで演奏するときのような主導性を見せることはない。それにも増して、ことアトミックに限れば母国のコングスベルク・ジャズ祭で最高賞を受賞したこともあるベースのインゲブリグト ・ホーケル・フラーテンと、とりわけ本ライヴでのポール・ニルセン・ラヴのドラミングの巧みさや表現の多彩なセンスにはいつも以上に感嘆させられた。演奏展開のさまざまな場面でユングヴィストとトランペットのマグヌス ・ブルーがリフや和声的パッセージを挿入することも効果をあげているが、それ以上にこのパッセージがヨーロッパのフリー系コンテンポラリー・ジャズの固有性や特色を象徴していることも軽視するべきではない。さらにどれほどフリーな即興性が戦わされる演奏でも、またテンポが変化して展開が複雑化する中でも、演奏がちぐはぐになったり、アンサンブルが乱れたりすることがないのには驚く。最も印象深いのは、アメリカに生まれ育ったジャズの歴史と、その後ヨーロッパが受容した文化としてのジャズの思想性が、このアトミックの演奏を通して合体しており、生命を鼓舞してやまない知的時空間が現出していること。特に、オーネット・コールマンに対する共鳴が根底に脈打っているのが特徴的だ。
 この演奏はストックホルムの、想像するにアングラ風のライヴハウスで、来日する半年前にライヴ録音されたもの。間近で聴いているような生々しい迫力があって、それが演奏の一体感に拍車をかける。ノルウェイのグループといっても、フロントの2人はストックホルム出身。ここはいわばアトミックにとっても地元のようなものだろう。

 繰り返せば、第2集(273341 - 0)も第1集にヒケをとらぬ出来映え。参考までに記せば、収録曲も前作で演奏された「Roma」「Sanguine」「Edit」「Two Boxes」「Barylite」の5曲。第2集に共感する人がむしろ多いかもしれない。どちらを聴いても、ヨーロッパにおける最強の共同体としてのアトミックの素晴らしさに触れることができるだろう。(2010年4月27日/悠 雅彦)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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