#  684

ウィントン・マルサリス&リシャール・ガリアーノ/ライブ・イン・マルシアック
text by Yumi MOCHIZUKI 望月由美

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The Jazz In Marciac/ビデオアーツミュージック
VACM−1413 ¥2,625(税込)

ウィントン・マルサリス (tp)
ウォルター・ブランディング (ts,ss,cl)
ダン・ニマー (p)
カルロス・エンリケ (b)
アリ・ジャクソン (ds)
リシャール・ガリアーノ (accor)
エルヴェ・セラン (p:9のみに参加)


1.La Foule (A.Cabral/M.Rivgauche)
2.Them There Eyes (D.Tauber/M.Pinkard/W.G.Tracey)
3.Padam Padam (N.Granzberg/H.Contet)
4.What A Little Moonlight Can Do (H.Woods)
5.Billie (Richard Galliano)
6.Sail Boat In The Moonlight (Lombardo/Loeh)
7.L'Homme A La Moto (M.Stoller-Lieber/J.Drejac)
8.Strange Fruit (L.Allan)
9.La Vie En Rose (Louiguy/E..Piaf)

録音:2008年8月13日 南仏、マルシアックにてライブ録音
プロデユーサー:Jazz In Marciac

 南フランス西部のマルシアックで毎年行われているジャズ・フェスティヴァル「ジャズ・イン・マルシアック」での2008年8月13日のステージをライブ収録したものである。ウィントン・マルサリスにリシャール・ガリアーノの競演、ウィントンのレギュラー・クィンテットにガリアーノが加わった6人編成で、いつもながらに統制のとれたウィントンのクインテットに、ガリアーノがときにはアグレッシブに、ときにはメランコリックに絡んでゆく。サブ・タイトルに「フロム・ビリー・ホリデイ・トゥ・エディット・ピアフ」と謳われている。アメリカの代表ウィントン・マルサリスとフランスの顔リシャール・ガリアーノがアメリカの“レディ・デイ”ビリー・ホリデイとフランスの“愛の賛歌”エディット・ピアフの当たり曲を演じるという企画。ビリーもピアフも1915年の生まれ。ほぼ同時代に歌い、二人とも40代半ばで亡くなっている。波乱に満ちた人生を送り情熱的な恋多き伝説を沢山残している点でも共通している。

 ここでのウィントンは自信に満ちた力強いアタックで朗々とトランペットを鳴らし、サッチモをも偲ばせるような伝統に立ち戻ったプレイで存在感を示す。ガリアーノはピアソラが最も敬愛していたビリー・ホリデイとエディット・ピアフに対して興味以上の特別の思いをもっているようで、今回のステージでもビリーとピアフにリスペクトの意を込めて感情のこもった演奏をしている。

 (1)、(3)、(7)、(9)がピアフゆかりの曲で(2)、(4)、(6)、(8)がビリーの持ち歌、(5)<ビリー>は本アルバム唯一のガリアーノのオリジナルという構成。

 ピアフの曲にはやはりフランスの、というかピアフの香り、エスプリがただよっている。たとえば(1)<群集>はピアフが南米に旅をしたときに耳にし歌った曲で、テーマを弾くガリアーノがラテンの味わいと哀愁を出してピアフの心象を巧みに描き出している。(3)<パダン・パダン>はピアフが初めてこの曲を聴いた時パダム、パダムと口ずさんだことから詩がつくられたという逸話が有名。ここでもガリアーノが導入部でピアフのイメージを再現する。ガリアーノはメロディをより美しく弾くことに長けておりほんの数小節でピアフの世界を導き出す。余談になるがガリアーノの新作『GB(ガリアーノ/バッハ)』でもバッハのメロディをあたかも自らのアコーディオン曲のように快く弾いている。メロディ弾きの天才だ。(7)<オートバイの男>はピアフとしては珍しく元々はアメリカの歌曲であったが、まるで自分の曲のように歌いこんでヒットさせた曲で、アップテンポの4ビートにのってマルサリスとガリアーノが延々チェースを展開、後半になってアリ・ジャクソン(ds)がスピードのあるドラム・ソロをとり会場をわかせる。客席からの声援が快適な臨場感をかもしだしている。

 ビリーの曲では(8)を除いてアメリカのよきスイング・エラの雰囲気を上手く醸し出してウィントン・マルサリス・クインテットのペースで進む。クインテットのグレードの高さは前作『ヒー・アンド・シー』(Blue Note)で十分に示されていたが、ここではライブならではの陽気でスインギーなプレイを展開しておりウィントン・クインテットの底力を見せつけられる。(8)<奇妙な果実>では他のビリー曲とは違ってルイス・アレンの詩の一言ひとことをかみ締めるように激しくシリアスにウィントンがテーマを吹き、ウォルター・ブランディングのクラがウィントンに絡んでゆく。戯曲のような物語性、状況描写は最近のウィントンの追求するテーマの一つだと思うが力のこもった熱演である。ブランディングのクラが素晴らしい。

 (5)の<ビリー>は本作唯一のオリジナル曲でガリアーノがビリーに捧げた曲である。ガリアーノはビリーとピアフ、二人の感情の振幅の激しさに共通点を見出していたようである。ガリアーノの思う<ビリー>は情熱と郷愁の両極を表現していて強く印象に残るバラードである。

(9)<ばら色の人生>はピアフが新人の歌手(マリアンヌ・ミッシェル)のために作詞作曲したものだが、曲をつくった当時ピアフに曲の登録資格が無かったためピエール・ルイギーの名義で登録したという。ミッシェルの歌が大ヒットしたため翌年の1947年にピアフが録音したといういわくつきの曲。ここではウィントンがサッチモの影も残しながらピアフの名曲を朗々と吹く。なんのてらいも無く堂々と吹くときのウィントンは気持ちがよい。

ライブ会場の「JAZZ IN MARCIAC」は1978年に始まり今年で第33回を迎えるサマー・ジャズ・フェスティヴァルで、例年7月の末から8月半ばまで半月にわたって催される。5000人を収容するという大テントで毎日2グループがステージに立つというから30グループほどが出演する大規模なフェステイヴァルである。出演ミュージシャンが素晴らしく、例えば今年の予定表を見るとヤロン・ヘルマンに始まり、ロイ・ハーグローブ、ランディ・ウエストン、チック・コリア、マッコイ・タイナーなどが名を連ねている。ジョン・ゾーンやマーカス・ミラー、アラン・トゥーサンなどジャンルも広い。上原ひろみもアーマッド・ジャマルと同じ日に出演する予定になっている。勿論、ウィントン、ガリアーノもここの常連である。ちょっと日本では考えられないような盛大な催しである。本アルバムでもその活況ある雰囲気が充分味わえる。
(望月由美)

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