#  687

ジュニア・マンス・クインチェット/アウト・サウス
text by 加瀬正之

Junglo Music (US) JG102 (【Import】 日本発売日:2010年04月5日)

ジュニア・マンス (p)
田中秀彦 (b)
ジャッキー・ウィリアムス (ds)
ライアン・アンセルミ(ts)
アンドリュー・ハドロ(bs)

1. Broadway
2. Dapper Dan
3. Emily
4. Hard Times
5. I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free
6. In A Sentimental Mood
7. Out South
8. Smokey Blues
9. Smokey Blues - Reprise

録音:2009年12月6日 @Cafe Loup (New York)

 ジュニア・マンスというと、共にディジー・ガレスピーのバンドのメンバーだったレイ・ブラウン(b)、 レックス・ハンフリーズ(ds)とのトリオで1959年に録音した記念すべき初リーダー・アルバム『ジュニア』を筆頭に、ピアノ・トリオのイメージが強く、また、リチャード・デイヴィス(b)との巨匠同士のデュオ作品で話題となった2008年のアルバム『ブルー・モンク』なども素晴らしかったが、本作は良い意味でそのようなイメージや期待を裏切る2管を従えたクインテット・アルバム!

 今年の10月で82歳を迎えるジャズ・ピアノの巨匠ジュニア・マンスは、1928年イリノイ州シカゴ生まれ。ピアニストの父を持ち、15歳からプロとして活動を始め、シカゴのルーズベルト大学で正式な音楽教育を受けている。ニューヨーク進出後はレスター・ヤング、ジーン・アモンズ、キャノンボール・アダレイ、ディジー・ガレスピー等のグループで活躍し、60年代に入ると自己のトリオを結成。現在まで膨大な数の名演・名盤を残している黒っぽくソウルフルでブルース・フィーリングが魅力の偉大なるジャズ・ピアニストだ。

 この最新作ではメキシコ・シティ出身のバリトン奏者アンドリュー・ハドロと、カンザス州パオラ出身でジュニア・マンスの秘蔵っ子でもあるテナー奏者ライアン・アンセルミという2管を従え、本領発揮の熱くソウルフルな演奏を繰り広げている。昨年12月6日ニューヨークのウエスト・ヴィレッジにある『Cafe Loup』でライヴ・レコーディングされたもので、臨場感も抜群! ドラムは1933年ニューヨーク州ハーレム生まれの大ベテラン、ジャッキー・ウィリアムス。ベースは毎週日曜日にその『Cafe Loup』でジュニア・マンスとのデュオで出演し、このアルバムでジュニア・マンスと3作目の共演となり、これまで5年間ジュニア・マンスのレギュラー・ベーシストを務めている気心の知れた田中秀彦が弾いている。

 オープニングの「Broadway」から、アンドリュー・ハドロとライアン・アンセルミの2管が唸りを上げて突っ走る感じが爽快で、ブルージーなジュニア・マンスのピアノも何とも楽しそう。続く「Dapper Dan」や「Hard Times」も黒っぽくて最高だが、その間にジュニア・マンスのピアノで聴かせる美しいバラード「Emily」を挟み、エリントンの代表的なバラード「In A Sentimental Mood」を散りばめるなど、白熱の演奏とのギャップも生のライブ感を一層際立たせる。そして、1962年のトリオによる名盤『ハッピー・タイム』でも披露した今作のタイトル・ナンバー「Out South」も真っ黒&ファンキーで、1961年のライヴ盤『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』でも披露しているジュニア・マンスのオリジナル・ブルース「Smokey Blues」から「Smokey Blues - Reprise」と怒涛の如くエンディングになだれ込む。まさにジュニア・マンスの真骨頂であるソウルフルでブルース・フィーリングたっぷりの快作!

 最後に、先頃5月16日(米国現地時間)に偉大なジャズ・ピアニスト、ハンク・ジョーンズが91歳で亡くなったが、ジュニア・マンスはちょうど10歳違いで、ペンシルベニア州ピッツバーグ出身だったハンク・ジョーンズとは故郷も近く、兄貴分のような存在だったはず。一人また一人と偉大なジャズマンたちがこの世を去っていく中、2010年9月1日~15日の来日も決定し、変わらぬその健在振りを見せてくれているジュニア・マンスの存在はジャズの宝だ。(加瀬正之/The Walker's)

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