# 693
Nobu Stowe/Confusion Bleue
text by 稲岡邦弥
Soul Note 121407-00
01.Introduction
02.Premier Mouvement
03.Intermede 1
04.Deuxieme Mouvement
05.Intermede 2
06.Blue In Green
07.Troisieme Mouvement
08.Intermede 3
09.Quatrieme Mouvement
10.パilogue: Dans La Confusion Bleue
Nobu Stowe-piano
Ross Bonadonna- guitar, alto-saxophone
Tyler Goodwin- double bass
Ray Sage-drums, percussion
Recorded by Ross Bonadonna @Wombat Studio, Brooklyn, NY, July 28, 2007
Mixed by Lee Pembleton @Green Door Studio, San Francisco, CA
Produced by Nobu Stowe, Lee Pembleton & Ray Sage
遠くの彼方にシンバルの連打が聞こえ、シンセのうねり(ベースのアルコかも知れない)が載り、やがてピアノがフェード・インしてくるが静かにフェード・アウトしていき、シンバルの連打だけが残される...英語で言う“weirdモ そのものの雰囲気を醸し出す。夢か現(うつつ)か幻か。Nobu Stoweの新作『コンフュージョン・ブルー』のイントロである。『Hommage An Klaus Kinski』
(Black Saint/2007) など
Stowe(ハイスクールでプログレ・バンドを率いていた)のリスナーは、パースネルに目をやり、プロデューサー・クレジットに「Lee Pembleton」の名を見つけ、ニヤリとうなずいて彼らの世界に身を委ねていくに違い。「Honyo Ohte」(大手方如。彼もまたハイスクールのプログレ・バンドの一員)のこれまたモweirdモなカバー・イラストですでに予兆を与えられてはいるのだが。
そして、このアルバムは彼らの期待通り、いや、多くにとっては期待以上の充実感を与えてくれるはずである。
__音楽は本編(02. Premier Mouvement)に入っていきなり沸点を超える。ドラムスとランニング・ベースが設定したプレストのテンポにのってピアノが疾駆する。このスリルと緊張感は69年頃のキース、ホランド、ディジョネットがいたマイルスの仏ブートレグのそれに近い。さらに、ギターが高速で絡んでくる。一部、緩徐的なパートが現れるが高い緊張感は維持されたままだ。似た雰囲気の演奏はインタールードを挟んだ04.Deuxieme Mouvementでも再現されるが、こちらはさらにエレクトリック・マイルス的な要素が強く現れる。StoweのYAMAHAがウーリツァに代わり、レイ・セイジの打ち出すハートビートとエフェクターの効用もあってファンク色が横溢する。Ohteのカバー・イラストはこのあたりの音の曼荼羅をイメージしたものだろうか。
ところで、このアルバムはStoweが追求する<トータル・インプロヴィゼーション>で演奏されたものであるが、アルバムの構成は一編の詩のように見事な結果を生み出した。フランス語で綴られた第1楽章から第4楽章まで長尺の演奏があり、その間をインタールードで埋め、頭と締めに序章と終章を置いた。そして真ん中に、完全に分解されアブストラクトな表情を持たされた<ブルー・イン・グリーン>(マイルスとビル・エヴァンスの共作)。『シュトゥンデ・ヌル』の古谷暢康(http://www.jazztokyo.com/five/five681.html)にも共通して言えることだが、Stoweは演奏者としての資質と同時にプロデューサーとしての資質を、しかも優れた資質を兼ね備えていると断言できるようだ。両者は、スタジオ録音で可能な、考え抜かれたようなバランスのとれたアブストラクトな演奏と同時に、ライヴ演奏で特徴的な奔流するエネルギーと感情の爆発をスタジオ録音で同時にやってのけることができる。しかもリーダーとして共演者の能力を最大限に引き出しながら、見事にこれを自らのコントロール下に置いているのだ。だからこそ、結果として、起承転結を備えたドラマチックな1枚のアルバムとして結実させることができる。古谷はそれをヨーロッパで、Stoweはアメリカでそれぞれ開花させた。Stoweはセシル・テイラーの前衛性とメインストリーマーとしてのキース・ジャレットの両極端を口にするが、ピアニストとしては当然の物言いとしても、セシル・テイラーを持ち出すまでもなく、マイルス時代のキースは十分アヴァンだった。そういう意味でこのアルバムはマイルスとキースのスピリットを今の時代に大いに反映させた内容を持つといっても良いのではないだろうか。10年程前にヘンリー・カイザーgがワダダ・レオ・スミスtpを担ぎ出して「ヨ・マイルス!」というプロジェクトを展開していたが、トランぺッターを欠いたこのアルバムによりマイルスのスピリットを感じたのは意外だった。
2007年7月に録音されたこのアルバムの発売に3年を要したのは他でもないSoul Note/Black Saintの経営破綻の問題があった。幾多の交渉の末、両レーベルは同じイタリアのCamJazzの傘下に入り、従来通り、ジョヴァンニとフラヴィオのボナンドリニーニ父子が制作を担当することになった。Stoweが自信作と自負するこのアルバムが世に出たことを併せて喜びたいと思う。
なお、Nobu Stwoeとは本名、須藤伸義。JazzTokyoでCDレヴューにライヴ・リポートに、はたまたインタヴューに健筆を奮っているあの須藤伸義である。ミュージシャンであると同時にメリーランド大学で研究(薬物依存症とドーパミンの関係)に勤しむ学究でもある。(稲岡邦弥)
* インタヴュー:
http://www.jazztokyo.com/interview/v64/v64.html
* アルバム・レヴュー
http://www.jazztokyo.com/newdisc/482/stowe.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.