#  700

テッド・ローゼンタール/ソー・イン・ラヴ
text by 稲岡邦弥

XQAM-1515 ¥2800

テッド・ローゼンタール (p)
植田典子 (b)
クインシー・デイヴィス (ds)

1. アウト・オブ・ジス・ワールド
2. ソー・イン・ラヴ
3. ジョーンズ嬢に会ったかい?
4. プレリュード第二番
5. エンブレイサブル・ユー
6. 粋な噂をたてられて
7. ロータス・ブロッサム
8. ハウ・ロング・ハズ・ジス・ビーン・ゴーイング・オン?
9. クライ・ミー・ア・リヴァー
10. イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オブ・ザ・モーニング

録音:マンフレッド・クヌープ@クヌープ・スタジオ、NJ、2010年3月9・10日
エグゼクティヴ・プロデューサー:藤原憲一
プロデューサー:テッド・ローゼンテール

 テッド・ローゼンタールの特質が良く現れたアルバムである。ジャズのエッセンスがクラシックで磨かれた技術で迸(ほとばし)り出て来る。冒頭からピアノのソロになると猛然とダッシュが始まる。一糸乱れぬ華麗な指さばきといおうか。タイトル曲の<ソー・イン・ラヴ>も同様。甘い感傷に浸ろうと呑気に構えていると置いていかれる。バラードとしてヴォーカルでは定番の<クライ・ミー・ア・リヴァー>が完全なインスト曲に姿を変える。スタンダードを得意とするテッドだが、スタンダードを破綻無く奇麗に処理するヨーロッパ系のピアニストとは明らかにグルーヴが違う。ニューヨーカーの面目躍如といったところか。植田典子bとクインシー・デイヴィスdsも苛烈なニューヨークのジャズ・シーンに活躍の場を求めるサムライたちである。脇を支えて抜かりがない。なかなか息を付く暇(いとま)もないほど緊張感とスリルに満ちた演奏だが、テッドのお気に入りのガーシュインの<プレリュード第二番>では、一転、レイドバックしたブルース・フィーリングにたっぷり浸ることができる。
 ところで、水も漏らさぬ緊密さを見せるこのトリオ、結成から2年になるという。きっかけは、岡山市のルネス・ホールの企画。1922年の竣工になる旧日本銀行岡山支店が2005年に文化・芸術の創造拠点に生まれ変わった。ジャズ部門のプロジェクトのひとつとして白羽の矢が立ったのがテッド・ローゼンタールのトリオ。脇のメンバーに異動はあったが、今年で連続5度目の招聘になるという。
 トリオには課せられたテーマがいくつかあり、ジャズとクラシックを融合し、1920年代を反映する音楽であり(ガーシュイン作品を3曲演奏)、人種の偏向を避けること、など。このトリオはそれらのすべてを見事にクリアしているだけでなく、まったく違和感なく、しかも高いレヴェルで1枚のアルバムに仕上げていることに驚嘆せざるを得ない。
 なお、エグゼクティヴ・プロデューサーを務めた藤原憲一氏は、テッド・ローゼンタール(1959年、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ)がセロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションの優勝(1988年)で獲得した1万ドルを投資、ベテランのロン・カーターb、ビリー・ヒギンスdsとゲストにトム・ハレルtpを招いて制作した出世作『ニュー・チューンズ、ニュー・トランジション』(Ken Music) の発売を受け入れたその人である。興味のある読者は経緯(いきさつ)を詳細に綴った藤原氏のライナーノーツを参照されたい。本アルバムの制作は、シナトラ・ソサエティ・オブ・ジャパン(SSJ)。シナトラの名唱で知られるクローザー<イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ>がそのサイン。シナトラに敬意を表したトリオの極め付けのバラード演奏で心地よくクールダウンさせられる。(稲岡邦弥)

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