#  702

Ethan Iverson、Albert Heath、Ben Street/LIVE AT SMALLS
text by 望月由美

Off Minor  SL-0010/OFM-012  ¥1800(税込)

イーサン・アイバーソン ( p )
ベン・ストリート( b )
アルバート・“トゥティ”・ヒース (ds)

1.Pound Cake (Lester.Young)
2.Good Bait(Tadd Dameron)
3.All The Things You Are(J.Kern/O.Hammerstein)
4.Laura(David Raskin)
5.Dance Of The Infidels(Bud Powell)
6.Out Of Nowhere(Johnny Green/Edward Heyman)
7.Little Melonae(Jackie Mclean)
8.A Flower Is A Lovesome Thing(Billy Strayhorn)
9.Confirmation(Charlie Parker)
10.Chelsea Bridge(Billy Strayhorn)
11.Oh、Lady Be Good(G.Gershwin)

録音:Glen Forrest
2009年12月16,17&18日@Smalls Jazz Club、NYC
プロデューサー:Spike Wilner

 実に懐かしい響きである。バッド・プラスのように目の覚めるような鮮やかなサウンドではない。むしろ、いぶし銀の音とでもいうような昔ながらのライブハウスの音がする。おそらくこれが「スモールズ」の音なのだろうと想う。当然のことながらイーサン・アイバーソンがバッド・プラスを離れて、しかもライブハウスでの普段着の演奏が聴けるところが興味のポイントである。アル・ヒース(ds)、ベン・ストリート(b)というメンバー構成もなかなか渋い。レパートリーというか選曲がまた凄い。レスター・ヤングに始まりタッド・ダメロン、バド・パウエル、ジャッキー・マクリーン、ビリー・ストレイホーン、チャーリー・パーカーといったジャズ・ジャイアンツの古典的な名曲が並び、ジェローム・カーンやデイヴィッド・ラスキン、ジョニー・グリーン、ジョージ・ガーシュインの有名なスタンダード曲がその間を埋めるというジャズ・スタンダードのてんこ盛り状態になっている。アイバーソンのジャズに関する慧眼そして博識ぶりは知ってはいたが今回の選曲にもそれが顕著にあらわれているようである。これらの曲については自筆のライナーノーツでウイットに富んだ文章を寄せている。演奏はアイバーソンが始めにイントロで曲のペースを設定しリズムの二人が加わるというオーソドックスなピアノ・トリオのスタイルを踏襲していて、バッド・プラスのような仰々しい仕掛けは無い。しかし、そこはアイバーソン、聴き進むにつれてアイバーソンらしい利発なテイストがトリオ全体を支配しているのが分かり、そのうえ三者の呼吸がぴったりと合っているので、まさに「スモールズ」というライブ空間に身をゆだねているような心地よさに包まれる。
 どの曲もよくこなれていて好演だが個人的には<4.ローラ>を好む。これまでマリガンの『パリ・コンサート』(Pacific Jazz)でのくつろぎと和らぎをこの曲の私的なベスト・アイテムとしていたのであるが、このアイバーソンはもう少しクールで知的な甘美さをたたえ、私のお気に入りに加わった。また、ストレイホーンの2曲も聴きもの。<8.ア・フラワー・イズ・ア・ラブサム・シング>はアル・ヒースのマレットによるドラム・ソロから始まる。アル・ヒースは今年で75歳になったというがコンパクトで端正なドラミングは未だ健在である。『Ella at Duke’s Place』(Verve)でのエラの歌声も『ランデヴー』(Videoarts)での渋谷毅のピアノ・ソロもよいが、このトリオの<ア・フラワー・イズ・ア・ラブサム・シング>もよい雰囲気を醸し出している。<10.チェルシー・ブリッジ>もまた然りで、あらためてストレイホーンの曲の力を知る思いである。
このレーベルは「スモールズ」のオーナー、スパイク・ウイルナーが当初はディジタル配信を計画して店でのライブ録音をスタートしたものの、いまや瀕死の状態のCD媒体でも思い切ってビジネスをしてみようと思い立ったのだそうだ。2年ほど様子を見て成功しなければ撤退すればいい、という覚悟の上で起業したものの、幸いなことにヨーロッパのハルモニア・ムンディなどを通じ2万枚が出荷できたというから先ずは軌道に乗り始めたといえよう。このシリーズは現在11作品がカタログ化されているが、日本ではディスクユニオンが直輸入し、レーベル<OFF MINOR>として独自の日本語解説を添付して販売している。(望月由美)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.