#  704

ベルリン・フィル12人のチェリストたち/ばら色の人生〜パリへのオマージュ
text by 相原 穣 Minoru AIHARA

EMIミュージック TOCE-90133  \2,800(税込) HQC仕様

演奏:ベルリン・フィル12人のチェリストたち

1.パリの橋の下(ヴァンサン・スコット)
2.パヴァーヌ(フォーレ)
3.ピガール(ユルメール)
4.残されし恋には(フランス映画「夜霧の恋人たち」主題歌)(シャルル・トレネ)
5.亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)
6.女は女である(フランス映画「女は女である」)(ミシェル・ルグラン)
7.パリの花(ブールテイル)
8.月の光(ドビュッシー)
9.ばら色の人生(ピエール・ルイギ)
10.パリの空の下(フランス映画「巴里の空の下〜セーヌは流れる」主題歌)(ユベール・ジロー)
11.ジムノペディ第1番(サティ)
12.人間の顔(プーランク)
13.プレリュード ロ短調(ショパン) *日本盤ボーナストラック

 世界最高峰のチェロ集団「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」が、日本ツアーに合わせてリリースしたニュー・アルバムがいざなうのは、ベル・エポックから1960年代までの郷愁のパリ。19世紀末のフォーレやドビュッシー、サティらの名曲、一世を風靡した滋味深いシャンソン、フランス映画の存在感を屹立させたトリュフォーやゴダールらのためにルグランらが書いた映画音楽という、多方面からの構成。それらが1つのディスクに並ぶのは原曲レベルなら想像しがたいが、チェロ・アンサンブルへのアレンジという蒸留過程を通すと、最も輝きを放った一連の時代のパリが1つのシルエットとして魅力的に浮かび上がる。近年の、例えば、映画音楽を取り上げた『時のすぎるまま』(2004)がハープや管楽器などを、祈りのオーラをまとった『天使のミロンガ』(2006)が声楽や合唱を所々に導入しているのに対し、今回は純粋にチェロのみ。その分色彩感は抑制されるが、多ジャンルを混在させたこのアルバムでは、むしろ統一感の醸成にプラスに働いている。
 フォーレ「パヴァーヌ」やラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」などはチェロの音色が映える旋律美をすっきりとした音構成の中で活かしたアレンジ。過去のアルバムでも多くのアレンジを提供しているドイツの作曲家、ヴィルヘルム・カイザー・リンデマンによるもので、その手腕はピアフの名曲「ばら色の人生」やアコーディオンの響きを模した「パリの橋の下」「パリの空の下」でも発揮されている。一方、「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」のメンバーであるルートヴィヒ・クワントやダヴィッド・リニカーのアレンジは、同アンサンブルの機能性を知り抜いているだけに、旋律と伴奏との織り上げ方がより有機的だ。
 このアルバムが単なるパリへのタイムスリップ的観光旅行ではなく、史実を見据えた上でのリスペクトであることは、最後にプーランクの「人間の顔」が収録されていることからも分かる。ポール・エリュアールの有名な詩「自由」(「学習帳の上に、机の上と木々の上に、砂の上に、雪の上に、私は書く、君の名を/(……)自由よ」)を終曲に置いたこの無伴奏合唱によるカンタータは、ナチス占領下で書かれ、1945年1月にロンドンで初演された。最後に今年が生誕200年に当るショパンの「プレリュード ロ短調」のチェロ・アレンジを日本盤ボーナス・トラックとして収録。ショパンは亡命者としてパリに生きたのみならず、チェロに格別の愛着を示し、ピアノ以外では唯一チェロに名曲を残した作曲家だ。(相原 穣 Minoru AIHARA)

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