#  705

Stan Tracey Quartet - Senior Moment
text by 須藤伸義

RESTEAMED Records RSJ108

Stan Tracey (piano)
Simon Allen (saxophone)
Andy Cleyndert (double-bass)
Clark Tracey (drums)

1.Afro-Charlie Meets The White Rabbit
2.Duffy’s Circus
3.Dream of Many Colours
4.Rocky Mount
5.Triple Celebration
6.Stemless
7.The Grandad Suite (Benology/ January’s Child/ Portrait of Katie/ Zach’s Dream)

All compositions by Stan Tracey

Recorded April 2nd 2008 @ Clown’s Pocket Studios
Recording Engineer: Derek Nash
Produced by Clark Tracey

英ジャズ界のゴッド・ファーザー=スタン・トレイシーの、バルチモア公演(2010年6月13日)を、本誌でレポートした。その会場で購入した、彼の近作『Senior Moment』(2009年発売)を紹介したい。スタンのレギュラー・トリオのメンバーで、バルチモア公演にも同行したべーシスト=アンディー・クレインダート、ドラマーのクラーク・トレイシーに、若手サックス奏者のサイモン・アレンが加わったクァルテット作である。スタンの個性ある作曲を全篇にわたって収録し、息子=クラークによるプロデュースで、自身のレーベルRESTEAMEDレコードからリリースされた。日本やアメリカでは、名作『Under Milk Wood』(Columbia:1965年)や映画『アルフィー』(1966年)のサウンドトラック参加等、往年の活動が偏って紹介されている感のあるスタン・トレイシーの、充実した現在を知るには、最適作であると思う。

ライヴ・レポートでも書いたが、スタンの作曲は、良く比較されるエリントン/モンクより、ハービー・ニコルスの作曲により近い気がする。同じく“コンポーザー=ピアニスト”に分類される、エルモ・ホープ的な感じも受ける。要するに、エリントンやモンクから受けた基本的影響の上に、自身の個性を投影し開花させた結果だと思うが、一聴して分かるカラーは、高く評価されるべきだと思う。具体的に言えば、フックの有るメロディー・ラインや、全体的調性の中での“不協和音”(2度を多用した和声:例えばド/レ/ミ)を使ったアクセント、ピアノの打楽器的側面を生かした“間”(リズム)等が、挙げられる。ただ、強力なスウィング感のおかげで“前衛的”な難解さは無くスムースな推進力が心地よい。(因みに、スタンは、エヴァン・パーカーや、キース・ティペット他の“前衛派”との共演歴も豊富。)

“トリッキー”なスタン作品を“音楽的”に表現するには、それ相応の理解/実力が各メンバーに求められる。勿論、本作参加メンバーは、何れも実力者で問題は何も無い。サイモン・アレンは、30代前半の若手で、もう少し独自の個性が欲しい気もするが、堅実なプレイで、スタン作品の個性をよく表現していると思う。彼は、ソプラノ/アルト/テナーの各種サックスをプレイしているが、とくにソニー・ロリンズ的な太い音色でよく唄うテナーが印象に残った。重量感がありながらメロディアスなクレインダートのベース、スペースを生かした繊細なプレイから、リズムを押し出したグルービーなプレイまで、ヴィヴィッドなドラムを聞かせるクラーク・トレイシー。そこに、パーカッシブだがスィンギーなスタンのピアノがフィーチャーされ、フレッシュな余韻を残してくれる。〈Triple Celebration〉のゴキゲンな演奏をぜひYOUTUBEで鑑賞していただきたい:http://www.youtube.com/watch?v=lzkkGKEZu-c

本作のタイトル『Senior Moment』は“老人ボケ”の意味で、英国的ウィットを感じさせるが、80歳を超えたスタンの、音楽に対する旺盛な創造欲、演奏する喜びを素直に味わいたい。
ライブ・レポートでも紹介したが、ベースのクレインダートは、自身のレーベルTRIOレコードを主宰している。トレイシーの諸作品の他、『Under Milk Wood』に参加したサックス奏者=ボビー・ウェリンズ他の英ジャズ界を代表する音楽家の作品をリリースしている。

最後に、正直に書くと、筆者も70年代以降のトレイシー作品は、2004年に前衛系のOGUNレコードから発表した、ルイス・モホロと組んだデュオ作『Khumbula』しか聴いていなかった。この機会に80年代以降の数作を入手したが、何れも傾聴に値する作品だった。興味のある方は、チェックしてみて欲しい。スタンのホームページには、彼の全ディスコグラフィーが載っているので参考になる:http://www.stantracey.com/discog.htm Nobu Stowe(須藤伸義)

*『Stan Tracey Quartet ? Senior Moments』は、アマゾン/ディスク・ユニオン等で購入可能。

**レーベル/メンバーの詳細は、以下のホーム・ページで:
RESTEAMED Records (http://www.resteamed.com)
TRIO Records (http://www.triorecords.com)

Stan Tracey (http://www.stantracey.com)
Simon Allen (http://www.myspace.com/simonsaxophone)
Andy Cleyndert (www.woodvillerecords.com/Andrew%20Cleyndert.htm)
Clark Tracey (http://www.clarktracey.com)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.