# 708
クロード・ウィリアムソン/ラ・フィエスタ
アブソードミュージックジャパン ABCJ-592
(2010年7月21日発売予定)
クロード・ウィリアムソン (p)
サム・ジョーンズ (b)
ロイ・ヘインズ (ds)
1. ラ・フィエスタ
2. 子供の愛
3. ファースト・トリップ
4. イン・ユア・クワイエット・プレイス
5. ニカの夢
6. ブラック・フォレスト
録音:1979年8月6日 ニューヨーク
まずお断りしておきたいのは、このアルバムは新録音ではなく1979年に録音されたもので、本国アメリカで80年にLPでリリースされ、日本では翌81年に旧トリオ・レコードより『ファースト・トリップ』というタイトルでLPでリリース後、95年にCD化もされたが、アメリカではCD化されずに廃盤となっていた作品であること。
この度、ウエスト・コーストのジャズメン達による50年代の古き良き時代のジャズに新たな息を吹き返した名盤シリーズとして、アブソードミュージックジャパンよりリリースされるのを機に紹介させてもらったが、音を聴く前にこのジャケット・デザインをじっくりと眺めて欲しい。これは50年代にヴァーヴ・レーベルの初期のレコード・ジャケットを数多く手掛けたことで知られるデヴィッド・ストーン・マーチンによるデザインだ! ジャズ・ファンなら一度はどこかで目にしているであろう個性的で眺めているだけで音が聴こえて来そうな独特のタッチで描かれたイラストは名盤と称される数多くのアルバムと共に残されているが、本作はそのデヴィッド・ストーン・マーチンが手掛けた最晩年の作品で、アルバム・カバーとしてはおそらく最後の作品ではないかと思われるとプロデューサーの妙中俊哉氏が語っている。妙中氏によれば、アルバム・タイトルがスペイン語で“祭り”という意味の『ラ・フィエスタ』であることを伝え、クロード・ウィリアムソンの写真をデヴィッド・ストーン・マーチンに送ってこのアートワークが誕生したそうだ。また、デヴィッド・ストーン・マーチンは本作でベースを弾いているサム・ジョーンズの1979年のアルバム『ザ・ベーシスト』でもとても渋いジャケット・デザインを手掛けているが、あまりジャズを聴いたことがない人たち、これからジャズを聴いてみたいという若い世代の人たちにはぜひジャケット・デザインという視覚的な観点からもジャズに興味を抱いてもらいたい。
本作は1926年生まれのジャズ・ピアニストで、50〜60年代に“白いパウエル(=バド・パウエル)”と称され、ウエスト・コーストで活躍したクロード・ウィリアムソンが1979年にサム・ジョーンズ(b)とロイ・ヘインズ(ds)を従えたトリオで吹き込んだ代表作のひとつ。クロード・ウィリアムソンは60年代後半に突如第一線から姿を消し、暫くの間スタジオ・ミュージシャンとして活動していたが、70年代後半にジャズ・シーンに復帰。本作はその復帰後のセッションを収めたものだが、復帰後は“白いパウエル”の異名をとった頃のスタイルは影を潜め、より耽美的なサウンドを特徴とするスタイルへと変化していったが、オープニングでクロード本人が選曲したというチック・コリアの「ラ・フィエスタ」を取り上げている点も興味深い。意表を突くようにスパニッシュ風の曲を選んでいる点にクロードの意気込みが感じられ、またロイ・ヘインズのドラムも粋に感じるほど乗っている。
クロードのソロで奏でるオリジナル・バラード「子供の愛」も美しく、続く本作がLP時代のタイトルになっていた「ファースト・トリップ」はロン・カーター(b)の曲で、ロイ・ヘインズがロン・カーターとトミー・フナランガン(p)のトリオでレコーディングしたアルバム『シュガー・ロイ』に収録され、それを耳にしたクロードが気に入って本作で取り上げたそうだが、晩年のサム・ジョーンズのいぶし銀のベース・プレイが味わえるのも嬉しい。そして、チック・コリアに続き「イン・ユア・クワイエット・プレイス」というキース・ジャレットのナンバーを選曲していることにも注目したいが、この曲はクロードにとってチャレンジともいえるイメージ外のスタイルで挑んでいる。そして、ホレス・シルヴァーの「ニカの夢」〜クロードのお気に入りのピアニストであるハンプトン・ホーズの「ブラック・フォレスト」でエンディングを迎える。
タイトル通り“祭り”と呼ぶに相応しく、新旧のジャズ・スタンダードを織り交ぜながら、クロード、サム、ロイの3人が意気投合し実に楽しそうにプレイしている雰囲気が好きだ。ジャズが凄かった時代からするとジャケット・デザインだけで感動させられるような作品はめっきり少なくなったと思うが、本作のようにジャケット・デザインとサウンドが見事に嵌った作品に出会えるのは嬉しい。ジャズに限らず音楽のCDの売れ行きが危ぶまれる今の世の中、ふらっと絵画展に立ち寄って思わぬ感動的な作品に出会うかのようにジャケット・デザインからジャズに魅せられることがあってもいいと思う。
最後に、観客のいる前、ライヴでの演奏を望んでいたというこのトリオだが、この録音から2年後の81年にサム・ジョーンズが亡くなってしまったことで叶わぬ夢となってしまったという…。(加瀬正之)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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