# 710
Ketil Bjornstad - Remembrance
ECM 2149
Ketil Bjornstad (piano)
Tore Brunborg (tenor saxophone)
Jon Christensen (drums)
Remembrance I-XI
Recorded in September 2009 at Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Produced by Manfred Eicher
普遍的なピアノ/ベース/ドラムのピアノ・トリオに対して、ピアノ/サックス/ドラムの編成は、“裏ピアノ・トリオ”とも言える。セシル・テイラーが、ジミー・ライオンズ/サニー・マレイと組んだトリオに代表されるように、前衛系ミュージシャンが好むフォーマットだ。サックスの加入により上層楽器が拡大されるのみならず、ベース奏者のルート(和音の基音)に縛られずピアノ即興の自由度が上がるのが、理由だと思う。しかし、同編成に拠りながら、ノルウェー出身のケティル・ビョルンスタが、同郷のトーレ・ブルンボーグ/ヨン・クリステンセンと組み、名技師ヤン・エリック・コングスハウグが腕を奮うオスロのレインボー・スタジオで、マンフレート・アイヒャー=プロデュースのもと制作した本作『Remembrance』からは 、熱い前衛とは対極的な、静謐な北欧の空気が漂う。11曲からなる本作は最近のECMリリースの中で、一番印象に残った作品だ。
アルバムは、深い針葉樹林を舞う粉雪を想起させる、ピアノのアルペジオで幕を開ける。クリステンセンのシンバル・ワークは、雲間から時折覗く陽光を表現するかのようだ。ビョルンスタのピアノと、澄んだ音色のブルンボーグが、北欧的郷愁を響かせるメロディーを紡ぎだす。暖かさを包容した冷気が、夢想的な音響空間を創出する。
この、印象的にアルバム冒頭を飾った〈I〉とシンプルに題されたオープニングは、〈XI〉と題されたエンディングと同一曲。ビョルンスタの他作品にも言えることだが、北欧の自然を歌ったトーン・ポエムとも言えるストリー性を感じる。全篇を通し同傾向の音像が奏でられているが、ビョルンスタの作る旋律ひとつひとつに淡いが、確かな個性が備わっているので、飽きさせない。対照的に、同じノルウェー人ピアニストで、ブルンボーグが最近作『Restored, Returned』(ECM2107:2009年)に参加している、トルド・グスタフセンのメロディーは、数曲聴く分には印象的だが、どれも似たような “金太郎飴的”作風で、ライブを観ていて飽きてしまった思い出がある。
数曲で聴かれる、ビョルンスタとクリステンセンのデュオ演奏は、本作制作のキッカケが、二人が個人的に製作したデモをアイヒャーが聞いた事に由来するのだろう。筆者にとって、クリステンセンは、パリを本拠地に活躍しているイタリア人ドラマー=アルド・ロマーノと共に“アメリカの呪縛”から解放され、真のヨーロピアン・スタイルのドラミングを確立した希有な存在だ。地中海的高揚感に満ちたロマーノのグルーブに対し、クリステンセンのドラミングは、フィヨルドに注ぐ雪解け水を思わす。迸る水流の様なプレイは、70年代のECM諸作品で最高潮に達している。残念ながら、90年代以降のプレイからは、嘗ての精彩がそこまで感じられない。しかし本作では、音響的なドラミングが、淡い色彩のビョルンスタのメロディーと出会い、豊かな音のタペストリーを綴る。
ブルンボーグは、クリステンセンと共に、アリルド・アンデルセンが、1980年代に結成したグループ=マスクァレロで頭角を現したテナー奏者。グループのアルバムや、マニュ・カチェの『Third Round』(ECM2156:2009年)他のECM諸作品に参加している。ヤン・ガルバレクの影響が強く、もう少しオリジナルな音楽性を聴きたいが、いかにも北欧的でECM的なプレイヤーだ。
因みに、民謡的北欧メロディーのジャズに於ける活用を、最初にアルバムとして発表したのは、スウェーデン人ピアニスト=ヤン・ヨハンソン(1931−1968年)。1964年発表の『Jazz Pa Svenska』にその成果が聞ける。このアルバムは、東欧圏(バルチック諸国)まで含む北欧全体で大ヒットした作品で、ガルバレク、ビョルンスタ、グスタフセン他のミュージシャンに多大な影響を及ぼしていると思う。興味のある方は、ヨハンソンの作品を再発しているHeptagonレーベルのホームページで試聴できるので、是非:www.heptagon.se。(Nobu Stowe/須藤伸義)
*『Ketil Bjornstad - Remembrance』は、アマゾン/ディスク・ユニオン他で購入可能。
**詳細は、以下のホームページで:
ECM Records
Ketil Bjornstad
Tore Brunborg
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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