#  711

辛島文雄 meets 森山威男/E.J.ブルース〜Tribute to Elvin Jones~ライヴ・アット・新宿ピットイン

PitInn PILJ-0003 \2,500(税込)



辛島文雄(pf)
森山威男(ds)
岡崎正典(sax)
川村 竜(b)

1.E.J.ブルース
2.ブラッド・カウント
3.ハンギン・アウト*
4.ワルツ・フォー・モンク
5.ビー・ハッピー・プリーズ*
6.イン・ア・センチメンタル・ムード
7.ワン・フォー・ヒム*
8.ラッシュ・ライフ
*作曲:辛島文雄

 毎日入電して来るNYのクラブ・ギグやジャズ・コンサートの情報を見ていると、物故した先輩ミュージシャンにトリビュートするものが実に多い。レスター・パーキンスから毎日送られて来るYouTubeからピックアップした“今日の1本”もほとんどが他界したジャズ・ミュージシャンの生誕を祝ってのものだ。去る者は日々に疎くはならないのだ。かくして、ジャズの伝統は脈々と受け継がれ、新たな息吹を与えられて進化していく。遺産として金庫の奥深く眠らせておかれるわけではないのだ。
 このアルバムは偉大なドラマー、エルヴィン・ジョーンズ(1927.9.9〜2004.5.18)を師と仰ぐ辛島文雄(p/1948~)と森山威男(ds/1945~)が師に捧げたものである。森山とエルヴィンの個人的な関係の詳細は不明だが、辛島はJTのインタヴューでも語っている通り元来ドラマー志望で、それだけに共演ドラマーのチョイスには非常に厳しいスタンダードを持っている。エルヴィンに見込まれた辛島は1980年に彼のグループ「ジャズ・マシーン」に入団、1986年に退団するまで寝食をともにする程深く付き合い、エルヴィンからジャズ・ミュージシャンとしての生き方のすべてを吸収し尽くした。
 オープナーの<E.J.ブルース>からパワー全快である。まるでエルヴィンのスピリットが乗り移ったかのよう。テーマのあとベースの川村竜(1982~)がいきなりソロを取るのに驚かされるが、思い切りのいいソロを受けるのはテナーの岡崎正則(1971~)。積極的に若手を起用しスピリットを注ぎ込んだエルヴィンの手法を踏襲しているのだろう。後ろでソロを支えた盤石の辛島と森山が貫禄のソロを取るのは3番手と4番手である。この1曲ですでに両の手にはじんわりと汗をかいている。何とも熱い演奏からアルバムはスタートするのだ。
 かくいう筆者もエルヴィン(間接的にはエルヴィンを導いたケイコ夫人)には個人的に大きな影響を受けたひとりである。エルヴィンとの仕事はケイコ夫人と親しかった同僚の原田和男の仲介で始まった。<E.J.ブルース>は、1978年に来日した「ジャズ・マシーン」の読売ホールでのライヴ盤にも収録されたのでことのほか愛着が深い。辛島=森山カルテットの演奏が「ジャズ・マシーン」の演奏と錯綜する部分があったのはそのせいである。当時の「ジャズ・マシーン」は、フランク・ウェスとパット・ラバーベラの2管、ベースはアンディ・マクラウドだった。エルヴィンにドラムを叩いてもらい辛島のトリオ・アルバムも制作した。忘れられない1作は、ルディ・ヴァン・ゲルダーにダイレクト・カッティングを依頼した『Very R.A.R.E.』。渋るルディを説得してくれたのが、エルヴィンとケイコさんだった。R.はローランド・ハナp、A.はアート・ペッパーas、もうひとりのR.はリチャード・デイヴィス、そしてE. エルヴィン・ジョーンズである!
 ジャズ・ファンがエルヴィンの演奏をもっとも強く記憶に留めているのはジョン・コルトレーンのカルテットだろう。それを彷彿させるのが<ワン・フォー・ヒム>だ。余りの求心力の強さに無意識のうちに前のめりになって聴き込んでいる自分がいる。<イン・ア・センチメンタル・ムード>もエルヴィンの愛奏曲。エルヴィンは巨躯で、演奏中はそのあまりの迫力ゆえに近寄り難い雰囲気を持っていたが、ステージを降りた彼は心根はとてもやさしく、周囲に気を遣うジェントルマンであった。
 辛島が自身のオリジナルで森山の真骨頂を引き出した曲が2曲。辛島の疾駆するフリー・フォームにブラシで激しく拮抗する<ハンギン・アウト>と、独特のスインギーなグルーヴをキープする<ビー・ハッピー・プリーズ>。
 ビリー・ストレイホーンが2曲演奏されているが、最後の<ラッシュ・ライフ>で辛島が心を込めたソロ演奏で師を送り出す。胸を打つエンディングである。
 なお、このアルバムは奥平真吾ds、池田篤に続くピットイン・レーベルの第三弾で、ピットイン・スタジオに導入された自前のプロ・トゥールスやハードディスク・レコーダーを使用して録音された。(稲岡邦弥)

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