#  714

吉松隆/タルカス〜クラシックmeetsロック
text by 稲岡邦弥/Kenny INAOKA

コロンビア・ミュージック・エンタテインメント

東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:藤岡幸夫
ピアノ:中野翔太
監修:吉松隆

01.タルカス(オーケストラ版) キース・エマーソン/吉松隆:編
 噴火/ストーンズ・オブ・イヤーズ/アイコノクラスト/ミサ聖祭/マンテ ィコア/戦場/アクアタルカス
02. BUGAKU 黛敏郎
 第1部:Lento/第2部:Moderato
03.アメリカ
Remix〜弦楽四重奏曲「アメリカ」によるピアノとオーケストラのための ドヴォルザーク/吉松隆:編)
 第1楽章 Allegro ma non troppo/第2楽章 Lento/第3楽章 Molto vivace/第4楽章 Vivace
04.アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番 op70b 吉松隆
 第1楽章 Allegro molto/第2楽章 Andante/第3楽章 Scherzo : Allegro scherzando/第4楽章 Finale : Allegro molto

 本誌悠雅彦主幹のコンサート・レヴュー(新・食べある記)の記憶もまだ生々しいが、まさにそのコンサートのライヴ収録盤が早くもCD化され、マーケットに出た。今年は世界最強のプログレ(プログレッシヴ・ロック)・バンド「エマーソン、レイク&パーマー」(EL&P)が1970年のワイト島フェスティバルでデビューから40周年にあたるという。このプロジェクトはその周年記念を含めいろいろいわく因縁があり、そのあたりの事情については監修者でもある吉松隆(1953~)自身の楽曲解説とインタヴュー(CD添付のブックレット)を読んでもらうのが手っ取り早い。というか、こういうアルバムこそ音楽を聴いてもらう以外にその面白さは分からないのだ。だって黛の<BUGAKU>以外はすべて書き下ろしなんだから。では、お前の役割は何なのだ?と問われれば、こういうとても面白い音楽が創られ、演奏され、CD化されたからぜひ聴いてみて欲しい、と旗を振ることさ。JazzTokyoの主幹悠雅彦がコンサート評で採り上げ、あの及川公生氏がすっかり冷静さを失って興奮しまくりの録音評 を書いている、それだけでも充分でしょう。
 CDのサブタイトルに「クラシック meets ロック」とあるが、ウリは吉松自身の作曲になる<アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番>(これは手塚治虫と「鉄腕アトム」に捧げた)と共にアルバム・タイトルにもなっているEL&Pの代表曲<タルカス>である。『タルカス』はEL&Pの2作目のアルバム(1971年)で、本作のアートワークはオリジナル盤に描かれたタルカス(アルマジロの胴体にキャタピラを付けた戦車風フィギュア)のイラストレーションからモックを起こして撮影されたものだ。吉松や制作者の『タルカス』に対する思い入れは相当なものである。<タルカス>はEL&Pでキーボードを担当していたキース・エマーソンの作曲で吉松がオーケストラに編曲、オリジナル通り7つのパートで構成されている。編曲といっても、学生時代に<タルカス>にはまり<春の祭典>との共通性を感じとった吉松だけにほとんど自作といえるほど血肉化されている。「(オリジナルの)電子オルガンの速弾きは、金管と弦楽器群による勢いのいいユニゾンに。変拍子を多用したドラムスのリズムを複数の打楽器に分解」(朝日新聞/8/09夕刊)など種明かしを聞かずに自分の耳で確認すべきだ。吉松自身は“この曲は、20世紀初頭の「現代音楽」と20世紀後半の「ロック」とを繋ぐ<ミッシング・リンク>に当たる重要な作品だと思う”とコメントしている。スコアを書きながら何度も投げ出したくなるほど大変な思いをしたそうだが、そのあたりはパット・メセニーの『オーケストリオン』にも相通じるものがある。幼い頃や若い頃の思いを熟年になって、石にかじりついてでも実現するってとても素晴らしいことだ。メセニーの『オーケストリオン』を聴いたファンはぜひ吉松の『タルカス』も聴いて欲しい。
 <BUGAKU>と<アメリカ>にも吉松はプログレに通じるグルーヴ(ノリ)を聴いている。それがこの2曲を今回採り上げた理由。<BUGAKU>は原曲通りだが、ピアノとオケ用に編曲された<アメリカ>だけが耳に馴染ませるのにやや時間がかかったというのが本音。
 朝日新聞の吉松取材の締めは“クラシックでもなくポップスでもなく、ただオーケストラというジャンルで生きてゆく。”同時代を呼吸し、同時代に生き、同時代を表現する音楽家吉松隆の改めての宣言である。(稲岡邦弥)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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