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テリ・リン・キャリントン&モザイク・プロジェクト〜ジャズと生きる女たち
text by 稲岡邦弥 / Kenny INAOKA

ビデオアーツミュージック VACM-1417 ¥2,500(税抜)9月1日発売予定

テリ・リン・キャリントン (ds)
エスペランサ・スポールディング (b/vo)
ジェリ・アレン (p)
パトリース・ラッシェン (keys)
シェイラ E (perc)
イングリッド・ジャンセン (tp)
ヘンレン・サング (keys)
ティネカ・ポスマ (sax)
ダイアン・リーヴズ (vo)
ディー・ディー・ブリッジウォーター (vo)
ノナ・ヘンドリックス (vo)
カサンドラ・ウィルソン (vo)
パトリシア・ロマニア (vo)

1. モザイク・トライアド
2. トランスフォーメーション
3. エコー
4. ウィストファル
5. クレイオラ
6. アイ・ゴット・ロスト・イン・ヒズ・アームズ
7. ミッシェル
8. シンプリー・ビューティフル
9. ソウル・トーク
10.アンコンディショナル・ラヴ
11.インサムニアク
12.カカドレス・デ・エモコエス
13.ショウ・ミー・ア・サイン

近年、日本でもジャズシーンで活躍する女性ミュージシャンが急激に増えている。ピアノやヴォーカルは言うに及ばず、管楽器やベースなど肉体的ハンディが云々される楽器でも女性の進出は目覚ましい。アルトサックスの朝本千可、小林香織、矢野沙織、纐纈雅代、寺久保エレナ、トランペットの市原ひかり、ベースではNYで活躍する植田典子など枚挙に暇(いとま)がない。はたしてドラムスはどうか。頭に浮かぶのは森高千里やプリプリのドラマーなど、ポップスやロックで活躍した女性ドラマーである。
さて、本プロジェクトのテリ・リン・キャリントン(1965年、マサチューセッツ生まれ) は、シンディ・ブラックマンと並ぶアメリカ・ジャズ・シーンのトップ女性ドラマーである。シンディはシリアス・ジャズからレニー・クラヴィッツまで幅広く、最近ではサンタナと浮き名を流しているが、今から20年程前(1989年)、小田急ホテル(新宿)の大きなコンコースで開かれた「ウイメン・イン・ジャズ」に新婚間もないトランペッターのウォレス・ルーニーらとカルテットを組んで出演した。テリ・リンは来月5日、レコーディング・メンバーからエスペランサ(b)やティネカ・ポスマ(as)らを率いて国際フォーラムの「ウイメン・イン・ジャズ」に乗り込んでくる。本作はその来日に合わせて世界に先駆けて急遽先行発売されることになった。
まず、そのメンバーの豪華さに目をむく。豪華なだけではない。サブタイトルに「ジャズと生きる女たち」とあるが、ノナ・ヘンドリックスやシェイラ(シーラ)Eなど必ずしもジャズ・フィールドにこだわることなく活躍しているミュージシャンも参加し、同時にヴェテランから売り出し中の若手まで年齢の幅も広い。これはそのままプロジェクトの主宰者テリ・リン・キャリントンの人間性と音楽性の懐の深さを反映しているものといえるだろう。テリ・リンはデビュー間もない18歳の時にジャック・ディジョネット(ds) に認められまたたく間に頭角を現した。筆者もジャックから「凄いドラマーがいるよ!」と耳打ちされ彼女の存在を知った次第。事実、ジャックはスケジュールのやりくりが付かない仕事は率先してテリ・リンに振っていた時期がある。この事実はあのジャックがどれほどテリ・リンを信頼していたかを物語るエピソードだろう。共演ミュージシャンもハービー・ハンコックからスティーヴィー・ワンダーまでこなしている。
さて、このアルバムだが、もちろんスターの顔見世的エンタテインメントで終わっているわけではない。オープナーの<モザイク・トライアド>でのジェリ・アレンのシリアスなピアノ演奏に象徴されるように、それぞれのミュージシャンが自らの音楽性を遺憾なく発揮して見事である。それらをまとめて一本筋を通す役割を果たしているのがポイントごとに配置されたテリ・リンの自作曲であり、それぞれの個性を生かしつつひとつのプロジェクトにまとめあげる柔軟性に富んだテリ・リンのドラミングである。良く知られた<ミッシェル>を聴いてみて欲しい。これほど違和感なくジャジーに処理された<ミッシェル>があっただろうか。
テリ・リンは今年の2ヶ月をこのプロジェクトに費やし、ほとんど自力でアルバムを完成させたという。プロデユーサーとしての立場で彼女はこうコメントしている。「素晴らしい才能を持つ女性のミュージシャンが増えて来ている事は確かな事実。男性だから、女性だから、という意識はまったくないが、音楽の世界も社会を反映したものであるべきだと思っているし、そんな中にあって、こういうものを作れる時代がやってきた」。たしかにそのとおりであろう。筆者も企画に参画した20年前の「ウィメン・イン・ジャズ」は集客に相当苦労した記憶がある。まだその時代ではなかったのかも知れない。
来月の「ブルーノート東京」と「東京JAZZ」では、耳と共に目も楽しませてくれるはずだ。音楽と同様、コスチュームでも彼女らは精一杯自らの個性を主張してくるはずだから。(稲岡邦弥)
* 9/04 ブルーノート東京
* 9/05 11:00~ 「東京JAZZ」Women in Jazz
詳細はHot Line/Localを参照。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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