#  718

竹内 直/オブシディアン
text by 望月由美 / Yumi Mochizuki

amazon

What's New/BounDEE  WNCJ-2207 2,800円(税込)

竹内 直(bcl、fl)
山下洋輔(p) on 3,5,7
中牟礼貞則 (g) on 1,4,5,8
井上陽介(b) on 1,2,4,6,9,10
江藤良人(ds) on 2,7,9

1.オブリビオン (Astor Piazzolla)
2.オブシディアン(竹内 直)
3.トライ・ア・リトル・テンダース(H.Woods,J.Campbell,R.Connelly)
4.アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オブ・マイ・ハート(D.Ellington)
5.プレリュード(Chopin)
6.ビューティフル・ラブ(V.Young,W.King,E.Alstyne)
7.クルディッシュ・ダンス(山下洋輔)
8.オール・ザ・ウエイ(J.V.Heusen)
9.ショーター・ザン・ジス(竹内 直)
10.ユー・アー・マイ・エヴリシング(H.Warren)

プロデューサー:竹内 直&佐藤弘
録音:佐藤弘@GROOVE Studio
2009年11月30日、12月14日、29日、2010年1月26日

 ドルフィー、コルトレーンを通過し、ときにはローランド・カークにもせまる演奏で特異な存在感を放っている竹内直の3年ぶりの新作である。今回のアルバムでは竹内直はバスクラ一本で臨み、メンバーは本人を含め自己の個性を確立したグレートが5人集められている。それぞれのメンバーはこれまで竹内がライブ・シーンを通じて音楽的に深く関わってきた人たちばかりであるが、メンバー間では今回の演奏が初めてと云う組み合わせもあるという。竹内の音楽的なレンジの広さが窺える人選である。メンバー構成で面白いのはこれだけのエスタブリッシュメントを集めながら演奏はトリオ、もしくはデュオという小編成をとっているのも本アルバムのキーポイントといえよう。コルトレーンは67年の4月『オラトゥンジ・コンサート』(impulse!)で、熱狂の坩堝のようなラスト・ライヴを行ったが、その2ヶ月前にはヴァン・ゲルダー・スタジオでの『インターステラー・リージョン』(impulse!)で静かな情念を燃やしていたように、ここでの竹内直はライブ・シーンでときおり見せる激しく燃えるような姿はみせないが、バスクラが本来木管楽器としてもっている微妙な音色の機微、ニュアンスを通して今の自分を伝えたかったのである。
<竹内+井上&中牟礼><竹内+井上&江藤><竹内+山下&中牟礼><竹内+山下&江藤>といった4組のトリオに<竹内+山下><竹内+中牟礼><竹内+井上>による3組のデュオという興味深い組み合わせが実現し、聴き所も多く竹内直の作品の中でも彩の鮮やかなアルバムになっている。
 竹内直は随分前からバスクラ一本の作品をつくりたいと思っていたというが、選曲にもそれがはっきりと示されている。シナトラの愛唱曲からショパンのプレリュード、ピアソラのオブリビオンまで耳に馴染んだ作品をとりあげてほのぼのとしたバラードに仕立て上げている。途中自らのオリジナルや山下の曲も挟まれているが古い佳曲と並んでも全く違和感がなく、全体が竹内直のイマジネーションで統一されている。
アルバム・タイトルの(2)<オブシディアン>は竹内のオリジナルで井上、江藤とのトリオ。ここで竹内は多重録音の手法を使い、手拍子、フルート、バスクラ等を重ね、自らが吹いたフルートのアンサンブルの上でバスクラ同士の会話を試みている。竹内直の最もやりたかったこと、発想の原点がここにあるように思える。(1)と(4)は中牟礼貞則(g)と井上陽介(b)とのトリオで中牟礼の、のどやかなトーンにのって竹内はピアソラとエリントンのメロディを優しくスイートに吹く。中牟礼のギターはバッキングにまわってもソロをとってもほのぼのとした空気が一面に漂い気分が和らぐ。(8)<オール・ザ・ウエイ>では中牟礼〜竹内のデュオ。中牟礼のギターに導かれてシナトラで慣れ親しんだメロディを竹内直が語りかけるように吹き、全編に渡って中牟礼の至芸が聴ける。そして山下洋輔はデュオ1曲とトリオ2曲に参加。ショパンの(5)<プレリュード>は丁寧にメロディを吹く竹内直にギターとピアノが優しく絡んでゆき、やがてギターとピアノのデュオにと発展してゆく。中牟礼、山下のソロもシンプルで典雅、そこにバスクラが絡み居心地のよい世界が広がる。マリガンの『ナイトライツ』(PHILIPS)に並ぶ瀟洒な佇まいは絶品である。余談になるが中牟礼と山下は長いキャリアの中で意外にも今回が初共演であったとのことである。1963年6月26日の深夜、伝説の銀巴里セッション(TBM)に二人は参加しているが二人の共演はディスク上には記録されていない。それから実に47年ぶりに二人の共演がここに実現したのである。
竹内、山下にドラムスの江藤良人が加わってのトリオによる(7)<クルデイッシュ・ダンス>は山下洋輔のヒット曲、(p),(ds)+(reed)という嘗ての山下トリオと同一編成ながら、ひたすら一直線にまっしぐら、の山下トリオとは違ってクールな<クルデイッシュ>に仕上がっている。江藤良人が山下洋輔、竹内直との掛け合いで洗練されたドラミングを聴かせる。江藤はこの他にも井上陽介を交えたトリオで(2)、(9)に加わりスリリングな局面を生み出していて素晴らしい。江藤と井上は日常的にも竹内直カルテットの一員として行を共にしており、三人の結束力が発揮され濃密な場面を随所に創り出している。
さて10曲中7曲に参加し、リズムの要となっているのが井上陽介のベースである。録音のよさもあって井上の存在が際立っている。アルコとピチカートを使い分け、あるときは中牟礼のギターと、あるときは江藤のドラムスと溶け合いながらしっかりとリズムをキープする。そして低音同士で竹内直のバスクラと対話する。編成が小さな分ベースの役割は大切になるが井上は歯切れのよいベース・ランニングで全編に渡って音楽を支えているのである。
 本アルバムは構想の段階からメンバーの人選、選曲、収録、編集作業までの全てを竹内直ひとりで丹念に行ったという。安易な自主制作盤が氾濫するなかで、本作のような丁寧な創り方は一つの方向を示しているのではないだろうか。
竹内直は現在、自己の「竹内直カルテット」のほか太田朱美(fl)、土井徳浩(cl)に自らのバスクラを加えた「木管三重奏」を結成するなどバスクラに大きな可能性を見出そうと探求をしている。本アルバムは竹内直にとって9作目にあたるが、新たなステージに向かっての第一歩となるであろう。 来る9月13日(月)新宿ピットインでレコーディング・メンバー全員を揃えて「オブシディアン」発売記念セッションを予定している。レコーディングとライブでどう局面が変わるか興味津々である。(2010年8月 望月由美)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.