#  720

Charles Lloyd Quartet/Mirror
text by 稲岡邦弥 / Kenny INAOKA

ECM 2176

Charles Lloyd (ts,as,voice)
Jason Moran (p)
Reuben Rogers (b)
Eric Harland (ds, voice)

1.I Fall in Love Too Easily (For Lily)
2.Go Down Moses
3.Desolation Sound
4.La Llorona
5.Caroline, No
6.Monk’s Mood
7.Mirror
8.Ruby, My Dear
9.The Water Is Wide
10.Lift Every Voice And Sing
11.Being And Becoming, Road To Dakshineswar With Sangeeta
12.Tagi

Recorded by Dominic Camardella@Santa Barbara Sound Design,
December 2009
Produced by Charles Lloyd & Dorothy Darr
Executive producer:Manfred Eicher


チャールス・ロイドが北欧のトリオを従えた『フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター』(ECM1398/1989年) というやや自虐的なタイトルのアルバムでECMデビューを果たしてから早いもので20年になる。その間発表したアルバムは13枚。このカルテットのデビュー作『ラボ・デ・ヌーベ』(ECM2053/2007年) は、大胆にもスイスのバーセルでの劇場コンサートのライヴ録音だったが、米『Jazz Times』誌の「批評家投票」「読者人気投票」で年間最優秀作に選ばれるなど高い評価を受けた。2作目の今作が初のスタジオ録音となる。アルバム・リリース後「ブルーノート東京」に出演したのだが、スケジュールの都合でベースのリューベン・ロジャースを欠いており、ひどく残念な思いをした記憶が蘇った。このアルバムでのリューベンの重責を考えるとよくもトリオで演奏したものだと思うが、当方のぶしつけな問いにロイドは、「音楽性を犠牲にしてまで、形を整えるためにトラ(臨時雇い)のベースを入れることはしない」と、毅然と答えたものだった。
アルバムはスタンダードの<アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー>がイントロ無しで始まるが、ロイドのテナーはむしろ淡々としており、気負いや必要以上の思い入れは微塵もみられない。この入り方は2004年の名作『ジャンピング・ザ・クリーク』(ECM1976) のオープナー<行かないで>を思い出させる。因みに名手ビリー・ヒギンスを継いだドラムスのエリック・ハーランドはこのアルバムからレギュラーを務めており今やロイドがもっとも信頼するパートナーに成長した。ロイドをプッシュするなど派手な動きは一切ないがしっかりロイドを支えている。むしろ、ベースのロジャースが何度かソロのスペースを与えられときに雄弁でさえある。ポール・モチアンの最新作『ロスト・イン・ア・ドリーム』(ECM2128)でクリス・ポッター(ts)と共演するなど最近とみに評価が高いジェイソン・モラン(p)も良く持ち場をわきまえた演奏に徹しているが、ジョンソン兄弟の手になる“黒人のための国歌”と別称される<リフト・エヴリ・ヴォイス・アンド・シング>(皆で声を上げ歌おう)では、他のメンバーとともに熱くファー・アウトしていく。
自作の愛奏曲とトラッドを中心に熟成したロイドにひたすら耳傾けることもできるが、それとなく挿入されたモンクの2曲(6,8)、対極的な「ビーチボーイズ」(ブライアン・ウィルソン)の<キャロライン、ノー>と「アフリカン・アメリカンの国歌」(<リフト・エヴリー>)、締めの人生哲学を語る<タジ>など、 ネイティヴ・アメリカンのバックグラウンドを持つロイドのアイデンティティでしっかり裏打ちされていることも見逃すべきではないだろう。(稲岡邦弥)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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