# 721
UoU/Home
text by 悠 雅彦 / Masahiko Yuh
Tippin' Recorde/ボンバ・レコード TP - 1107
1.はなうた
2.ノー・マインド
3.クィーンズ・ダンス
4.キャッツ・プレイ
5.ホーム
6.モルディアナ
7.アズ・アイ・リコール
8.オフロ・ソング
9.しょか
10.ロッカバイ
山田拓児(ts,ss,cl,bcl)
阿部大輔(g)
小森陽子(p)
津川久里子(b)
二本松義史(ds)
2008年9月30日、10月1日、ニューヨーク州ブルックリン録音
かつて2003年に上原ひろみのデビュー作が米テラークから発売されたとき
は驚いたものだった。日本のまったく無名のジャズ演奏家がデビュー吹込作を米国のレコード社から発表するチャンスに恵まれるということは、当人がよほどの楽才の持主であるとか、少なくとも例外的な幸運に属する事柄と見なされて不思議はない時代だったからだ。だが、あれから10年も経っていないのに、世界中のどんな演奏家がどこからデビューしても、それが特段のニュースにもならないくらい世界はグローバル化した。地球はますます狭くなっているらしい。
日本の若い5人のミュージシャンで構成された UoU(ユー・オー・ユー)
が米国のティッピン・レコード社からデビュー作を発表したからといって、それじたい大したニュースではないのもグローバル時代であるからかもしれない。あるいは、ティッピンというレーベルが余り知られていないマイナー・レーベルであることも関係がないとは言えないだろう。だが、ともあれ彼らユー・オー・ユーの高度な音楽的クォーリティと演奏が関係者の目にとまり、フレッシュな日本人グループとして米国のレーベルから世界に向けて羽ばたいたことを喜びたい。
ボンバ・レコードからの添付資料には、UoU の5人が全員バークリー音楽院に学び、ニューヨークでも活動している、とある。彼らが同期生かどうかは分からないが、ギターの阿部大輔はドイツのレーベルからすでにリーダー作を発表した注目株だそうだ。全10曲すべてが彼ら5人のオリジナルで、それがある種の新鮮な風を吹き込む原点となっているのは間違いない。タイトルは『ホーム』。10曲の中には「はなうた」や「しょか」があり、これらが「鼻歌」、「初夏」だとすると、(8)も「お風呂ソング」? 資料ではローマ字と英字だったが、私の独断でひらがなとカタカナに直して表記した。面白いのは、これらの曲名から受ける、日本風な情緒やコミカルな生活情感の何かしらが、演奏からはほとんど感じられないことだ。演奏はとても行儀よく、曲名が想像させる一泡吹かせるような、あるいは意表を突く面白さを期待すると、裏切られるかもしれない。パット・メセニーの作風をしのばせる大自然の開放感が活きいきと脈打つオープニング曲のどこが「はなうた」なのかは何度聴いても分からないが、リズムをリードする山田のバスクラから阿部のギターと同調するテナーの旋律へと流れていくときの心地よさが、作曲者である阿部の意図する「はなうた」なのかもしれない。
一方で昨年、横浜で高瀬アキと共演?した作家・多和田葉子の『エクソフォニー』に倣っていえば、母国文化から脱出して新天地を目指している5人の日本の若者が、日本文化の影響圏を離れて音楽する悦びを表現した作品といえないこともないだろう。西洋(外国)の楽器で、今や国際語であるジャズを演奏する彼らが、精神的な拠り所を求めたりするとき、あるいは不意に日本人としての血が躍ることはあるに違いない。それがこの場合、タイトルの『ホーム』に象徴されたと見るのは穿ち過ぎだろうか。3拍子の「クィーンズ・ダンス」にしても、小森陽子のメロディーはチャーミングだがジャズっ気がない。いいかえれば、彼らは日本らしさも.黒人性も、アメリカ色などからも脱出して新しい方向を歩み出そうとしている。すべてにおいて顕著なのが彼らのバランス感覚だ。羽目を外さないのも、演奏に汗臭さを感じさせないのも、結果として清潔感が顕著なのも、このバランス感覚から生まれていると考えると面白い。面白いというのはかつてのジャズ、あるいはかつてのミュージシャン気質が、過去の遺物と化しているかもしれないと、彼らのサウンドを聴きながらふと思うからでもある。
立ち止まって考えると、まさしくジャズはインターナショナルな音楽となったのだろう。それは UoU の演奏に窺われるさまざまな質や傾向が決して彼らのみならず、今やアメリカやヨーロッパの多くのジャズに見出されるからだ。私はこの1作を聴き終えて、良質な、しかし今日的な日本食を味わったような気がした。脂ぎったところがないからかもしれないし、エキサイトさせる要素が演奏じたいの中心的眼目となっていないゆえかもしれない。最近の若い世代は<草食系>といわれるが、大学出身者からなる最近の若いジャズ・グループも草食系といっておかしくないほど清潔でクレバーだが、UoU は中でも優れて魅力的な草食系ジャズ・グループであるといってよいだろう。(8月25日 悠 雅彦)
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