#  722

Cynthia Felton/Come Sunday〜The Music of Duke Ellington
text by 悠 雅彦 / Masahiko Yuh

(Felton Entertainment FE-0002)

1. It Don' t Mean A Thing ・・・
2. Caravan
3. In A Sentimental Mood
4. In A Mellow Tone
5. Lush Life
6. Perdido
7. Come Sunday
8. Take The A Train
9. I Got It Bad
10. Sophisticated Lady
11. I' m Beginning To See The Light
12. Duke' s Place
13. Prelude To A Kiss

Cynthia Felton (vcl)
w. パトリース・ラッシェン(p)…1/8/12/13
 サイラス・チェスナット(p)…2/5/7
 ドナルド・ブラウン(p)…3/6/9/10
 ジョン・ビーズリー(p)…11
 トニー・デュマス(b)…1/8/12/13
 ロバート・ハーストJr(b)…2/3/6/7/9/10
 ライアン・クロス(b)…4
 ジョン・B・ウィリアムス(b)…11
 テリ・リン・キャリントン(ds)…1/8/12/13
 ジェフ・テイン・ワッツ(ds)…2/7
 ヨロン・イズラエル(ds)…3/6/9/10
 ローカ・ハート(ds)…11
 ロナルド・マルドロウ(g)…3/6/11
 ウォーレス・ルーニー(tp)…2/8/9
 ノーラン・シャヒード(tp)…12
 アーニー・ワッツ(ts)…2/11
 ジェフ・クレイトン(as)…6/9/12
 ムニョウンゴ・ジャクソン(perc)…2/3/8
 キャロル・ロビンズ(harp)…13

Executive Producer:Dr. Cynthia J. Felton
Produced & Arranged by Dr. Cynthia J. Felton

 つい先だってギラ・ジルカに驚かされたばかりだというのに、またしても女性ヴォーカリストに賛辞を呈することになった。シンシア・フェルトンという名の黒人シンガーで、CDは彼女自身から送られてきた。JTのこのサイトに注目しているのだろう。10月初めの発売だそうだ。フェルトンにはすでに『Afro Blue』というデビュー作があるので、これは第2作ということになるのだと思う。<The Music of Oscar Brown Jr.>の副題が示す通り、第1作はマイルスの「オール・ブルース」やボビー・ティモンズの「ダット・デア」などのオスカー・ブラウンが詞を書いた楽曲を集めて歌ったものだ。これに対して、この第2作は<The Music of Duke Ellington>をうたった、いわば<シングス・デューク・エリントン>である。この後も数作は<The Music of 〜〜>の形での展開を考えているのかもしれない。
 全13曲は、作曲家エリントンにとって最良のパートナーだったビリー・ストレイホーンの有名な「ラッシュ・ライフ」を含めて不朽の名品ばかり。エリントンが生涯に1000を超える楽曲を遺したエリントンの名曲はほかにも沢山あり、彼女にはぜひ第2集を吹き込んで欲しい。のっけからそうアピールしたくなるほど彼女の歌唱は素晴らしい。もちろん当初からフェルトンが第2集を念頭においていたとは、本作用に選んだラインアップからは考えにくい。というのも、3曲目の「イン・ア・センティメンタル・ムード」に始まり、「ラッシュ・ライフ」から「カム・サンデイ」、「アイ・ガット・イット・バッド」、「ソフィスティケイテッド・レディ」、最後の「プレリュード・トゥ・ア・キス」まで、エリントンのバラード曲といえば誰もがまっ先に取りあげる珠玉の作品がすべて収められているからだ。あとの作品のことを顧慮した形跡はない。フェルトンの場合、バラードものがいいか、アップテンポのものがいいか、きっと意見が分かれるだろう。なるほど4オクターヴの声域を誇る驚異のヴォイスには目をみはらされるが、いささか線が細い。だが、声を巧みにコントロールしながら言葉に即応して情感を発揚するテクニックにはわざとらしさがなく心憎い。白状すれば、欲張りな私はここで思わず、これでサラ・ヴォーン・クラスの声の太さがあったら鬼に金棒、とつい口を滑らせてしまったのだが、逆を言えば彼女は声の線の細さをカバーして余りあるセンス、スピリット、豊かな表現力の持主である底力を示したことになるのではないかと考える。
 アップテンポ、あるいはそれに類する7曲はジャズ・スピリットが旺盛な唱法で、テンポのノリ、フレージング、コーラスの展開、つまりはセンテンスの作り方もスポンテニアスで溌剌としている。つまり、運びが活きいきと弾んでいるのだ。ゴスペル出身で、R&B活動をも経験したジャズ・シンガーという、これら異質なカテゴリーの良質なクォーリティを摂取して自己のスタイルを作り上げているハイブリッドな歌手らしい、活きのよさと頭のよさがシンシア・フェルトンのフェルトンならではの恰好よさといってよいだろう。原盤解説を書いているデヴラ・ホール・レヴィーによれば、フェルトンはバークリー音楽院から学士号を、ニューヨーク大学でパフォーマンス・マスターの学位を取得しているという。それにふさわしい知的な輝かしさがどの曲にもあり、(1)、(4)、(6)などのスキャットの鮮やかさに触れれば、彼女が筋金入りのジャズ・シンガーであることは明らか。かつてのエスター・フィリップスの熱唱をしのばせるのも、ゴスペルやソウルの出自を持つジャズ唱法の黒い魅力ゆえであろう。
 豪華なバックも特筆に値する。前作同様サイラス・チェスナット、ボブ・ハースト、ジェフ・テイン・ワッツが軸になってはいるものの、この第2作ではさらにフェルトン自身が白羽の矢を立てた意中のミュージシャンをみずから交渉説得して起用しており、ドナルド・ブラウン、パトリース・ラッシェン、T・L・キャリントン、ウォレス・ルーニー、アーニー・ワッツ、ジェフ・クレイトンら現代ジャズ界のトップ・プレイヤーがフェルトンが目論んだ通りの秀逸なプレイを披露している点に注目したい。私の推すベスト・トラックは「パーディド」。スキャットよし、ブラウンとクレイトンのソロもよし。ベースのライアン・クロスとデュエットした(4)、先掲チェスナット・トリオを得て熱唱した(7)も推奨に値する。また、ラッシェン、T. デュマス、キャリントンのトリオで飾った締めくくりの(13)にハープを加えた彼女のセンスとアイディアにも心動かされた。(2010年9月2日 悠 雅彦)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
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#10 Contents
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