#  724

カート・ローゼンウィンケル/アワー・シークレット・ワールド
text by 稲岡邦弥 / Kenny INAOKA

SONG Xジャズ/SONG X-001 2,625 円(税込)

Kurt Rosenwinkel: Guitar
Orchestra de Jazz de Matoshinhos:
Jose Luis Rego, Joao Pedro Brandao, Joao Mortagua, Nuno Pinto, Mario Santos, Jose Pedro Coelho, Rui Teixeira: Woodwinds
Michael Joussein, Alvaro Pinto, Daniel Dias, Goncalo Dias: Trombones
Nick Marchione, Erick Poirrier, Rogerio Ribeiro, Jose Silva, Susana Santos Silva: Trumpets
Abe Rabade, Carlos Azevedo: Piano
Demian Cabaud: Double Bass
Marcos Cavaleiro: Drums

Arranged by: Carlos Azevedo (1,4,5,6), Ohad Talmor (2,3), Pedro Guedes (7)
Conducted by: Carlos Azevedo (1,4,5,6), Pedro Guedes (2,3,7)
Recorded by Mario Barreiros and Joao Bessa at Boom Studios, Porto, Sep.7-9. 2009

01: Our Secret World 6:34
02: The Cloister 9:18
03: Zhivago 8:45
04: Dream of the Old 11:34
05: Turns 6:38
06: Use of Light 10:10
07: Path of the Heart 13:08

All Compositions by Kurt Rosenwinkel
Produced by Pedro Guedes and Kurt Rosenwinkel

今号では大編成で演奏されているものをトリオ・ヴァージョンで演奏したアルバムと、逆のパターンで、コンボで演奏されたものをビッグバンド用にアレンジされたものを担当する結果になった。本作が後者で、2007年にポルトガルの ビッグバンド、「オルケストラ・シャス・テ・マトシニョス」が自作をアレンジした演奏を聴いたカートがその高度な内容に感激、共演を持ちかけたという。ポルトガルのジャズのレヴェルの高さは古谷暢康の『シュトゥンデ・ヌル』で確認済みだが、10数年のキャリアを持つこの「マトシショス」と編曲を分担した3人のアレンジャーもただ者ではない。周知のようにカートの音楽は「厳格に理論化された構造と甘美で無邪気な詩情がせめぎあう」(トム・ムーン)という相反する側面を合わせ持つのが魅力だが、驚くことに3人のアレンジャーはこの相反する側面をさまざまな形でカートやオケに反映させているのだ。その作業はとても緻密で、カートがオケの一員になったり、カートがソリストになってオケと協奏曲を演じたりしながらカートの音楽の持つ魅力を十二分に展開していく。そのベースになっているのはカートが多用する豊かで複雑なコードをオケのアンサンブルで表現する手法で、その千変万化する微妙なニュアンスは聴くたびに新しい発見をもたらす。テンションに満ちたその響きは怪しいまでに美しいだけではなく、ときとして密やかな毒をも含んでいることはいうまでもない。カートはその印象を「自分の曲によって描かれたキュビズムの絵画」と適切に表現している。楽曲の選択から編曲まですべては3人のアレンジャーの手に委ねられていた。録音にあたってカートは「ビッグバンドを引っ張ってゆく主人公、メインのナレーターの役割を演じる」べく「意気揚々」だったという。「アレンジの最後の一筆を書いていく役割だから、それによってアレンジを統一していかなきゃならない」。(プロダクション・ノート)どれも聴き応えのある演奏ばかりだが、個人的にはカートがうまくオケの一員に溶け込んだ交響詩ふうのM7.にもっとも魅力を感じた。
因に、カート・ローゼンウィンケルは、1970年米フィラデルフィアの生まれ。父親はドイツ人、母親はノルウェー人。バークリー音大を中退して、ゲイリー・バートンvibやポール・モチアンdsのバンドを経て独立。NYからチューリヒを経て現在はベルリンに住む。ジョン・スコフィールド、パット・メセニー、ビル・フリゼールに次ぐコンテンポラリー・ジャズ・ギタリストであることは衆目の認めるところ。
NYヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ・レコーディングの発売を巡って対立、契約先のVerveを袖に振ったカートだが、自ら立ち上げたWOMでの実績も着実に上がっているようだ。厳しい環境の中、カートにとってモニュメンタルな作品となるこのアルバムの国内発売でスタートを切った新レーベル「ソングエクス・ジャズ」にも健闘を期待したい。(稲岡邦弥)
http://www.jazztokyo.com/newdisc/642/rosenwinkel.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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