# 727
ザ・レイモンド・マクドナルド・インターナショナル・ビッグバンド/バディー
text by 悠雅彦/ Masahiko YUH
TEXTILE AMP - 0007 ¥ 2, 300 (2, 190 )
1 ) Conduction Instruction | 2 ) Hearing , not talking : Tokyo |
3 ) Small Groups ( Part 1 ) | 4 ) Why I Missed Co;e Porter |
5 ) View from the 17th Floor | 6 ) Artificial Intelligence |
7 ) Small Groups ( Part 2 ) | 8 ) The Big Toe |
ジム・オルーク( guitar )
ギデオン・ジュークス( tuba )
アリスター・スペンス( piano, keyboard )
ロイド・スワントン( double bass )
田村夏樹( trumpet )
蜂谷真紀( voice )
藤井郷子( piano, keyboard, accordion )
トビー・ホール( drums )
レイモンド・マクドナルド( alto and soprano saxophones )
松本健一( tenor saxophone )
八木美知依(琴)
吉田達也(drums )
以上、オリジナル盤の表記通り。
Live at Buddy (江古田)、2008年8月24日/Mixed and Mastered at Red Block Mastering (スコットランドのグラスゴウ)〜2009年3月
取れ立ての素材で調理した料理と同じで、材料が新鮮な音楽は音にも演奏の展開にも生の息吹がピチピチと跳ねるかのような味わいがある。それが聴き手の耳に新鮮な風にも似た妙趣を呼び覚ます。
この1作は、日本でライヴ録音され、スコットランドでマスタリング作業を完了したのち、フランスのレーベルを通して発表された。まさにインターナショナル。
メンバーも多士済々で、こちらは明快にインターナショナルを謳う。すなわち、リーダーがスコットランドの代表的なサックス奏者レイモンド・マクドナルド。米国生まれのギター奏者で2006年に東京へ移住したソニック・ユースのジム・オルーク、渋さ知らズや日本のミュージシャンとの共演で話題をまいた英国のチューバ奏者ギデオン・ジュークス、オーストラリアのアリスター・スペンス・トリオ、そして田村=藤井夫妻、藤井郷子オケのテナー奏者、松本健一、琴の八木美知依、とはいえ、編成自体もバラバラだし、どこから見たって伝統的なビッグバンドの体をなしていない。もっとも、たまたまレイモンド・マクドナルドの音楽に関心を持つミュージシャンが集まってみたら、こんな形のユニットになったというのでもなさそうだ。マクドナルドはスコットランドの地元でグラスゴウ・インプロヴァイザーズ・オーケストラを率いており、即興演奏の最も進化した( progressive )形を大人数のミュージシャンと創造的に結晶させていく、そこでのコラボレーションのスリルをここ東京で体験しようとしたのかもしれない。大人数のミュージシャンがビッグバンドという枠の中で同時に即興演奏する予測不能な展開を、それぞれが自律的な主体性を保って実現した数少ない例の1つとして、ここに取りあげた。
そんなわけで、ここにはいわゆる編曲という作業は介在しない。スコアは即興演奏の道しるべとしてのアイディアを記したもので、どう選択して音楽的達成に結びつけるかは個々の演奏家に委ねられているように見える。arrange ではなく、devise という語を用いている理由でもあろう。マクドナルド自身が書いた短いノーツには、このビッグバンドのデビュー作とあるが、形を変えてこの試みを持続する意思を表したのかもしれない。彼のただし書きによれば、(4)(8)が自身の作曲で、(1)(2)(3)(7)がディヴァイスされた作品。つまりdevise はビッグバンドの演奏が前提になった用語としてあり、こうした言葉の使い分けは、ここでの音楽がどのように構成されているかを大まかに示すためだとみずから付記している。スコットランド芸術評議会が彼のオーケストラのために、AACM出身のトロンボーン奏者で作曲家のジョージ・ルイスへ委嘱した(6)も、作曲者によって<案出>された作品とある。(5)だけがフリー・インプロヴィゼーション作品のようだ。
どういう経緯でマクドナルドが来日したかは知らない。ただ、確か5年ほど前に田村夏樹と藤井郷子が欧州ツアーにおける英国での演奏会で彼と共演する機会があったことを聴いたような記憶があり、吹込でも『 Cities 』というCDが記録されている。少なくとも夫妻がお膳立てをしたことは間違いない。アリスター・スペンス、ロイド・スワントン、トビー・ホールからなる優れた豪州トリオはこの年(2008年)の<東京ジャズ祭>のイベントに出演するために来日中で、藤井、田村とも何度か共演する機会をもった。
このビッグバンド演奏は自己主張に主眼をおくのではなく、全員が進行にそって選んだ音や即興演奏でサウンドを組み立てる中で、ビッグバンドとしてどう表現するかを解決しながら展開していくところが関心の中心になる。それぞれが、たとえば蜂谷美紀のヴォイス・テクニック、八木美知依の琴、藤井のアコーディオンが自分のヴォイスで貢献しているのをはじめ、全員がその時点でふさわしい即興演奏を展開していきながら、(3)のように現れては消えるサウンドがまるで影絵のように踊ったり、各ヴォイスが明滅する流れを追っていると、不思議な感銘を覚える。ルイスの(6)が最も印象深かったのは、デッサンから始まった風景が、リズミックな展開とともに具体的な色や形を得てキャンバスに広がっていき、終幕における美しい夕闇に身を浸すかのような感覚にとらわれた幻想的な既視感を体感したからかもしれない。
2010年9月23日 悠 雅彦
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.