# 729
Nik Bartsch´s Ronin/Llyria
text by 今村健一
ECM 2178
Modul 48
Modul 52
Modul 55
Modul 47
Modul 53
Modul 51
Modul 49_44
Nik Bartsch (p)
Sha (alto sax, bass cl)
Bjorn Meyer (b)
Kaspar Rast (ds)
Andi Pupato (perc)
Recorded at Studios La Buissonne、Pernes-les-Fontaines. March 2010
Engineers: Gerard de Haro, Nicolas Baillard
Produced by Manfred Eicher
ECMとファンク、と書くと少し取り合わせが悪いような感じがするが、思い返せばECMはその世界観を完成させる過程でグルーヴ・ミュージック方面でも独自の探求を行ってきた。マル・ウォルドロンの『The Call』(※JAPO)やウォルフガング・ダウナー、エバーハルト・ウェーバーらの正に“プログレッシヴ”な諸作を生み出した70年代のレーベル初期に始まり80年代のNYパワー・ステーションで録られた数々のヘヴィ・ファンク作やエレクトリック・フュージョン、そしてポスト・アシッド・ジャズの嚆矢となった90年代のニルス・ペッター・モルヴェル周辺など、レーベルの歴史を通じマンフレート・アイヒャーは全くオリジナルな視点から斬新なグルーヴを節目節目で開拓してきたのである。
その話の掘り下げはまた別の機会に譲るとして、海外のプレスに「禅ファンク」と称されるニック・ベルチュ率いる<ローニン>は、ECMからリリースされる音楽の中でも久々に“グルーヴ・オリエンテッド”と言い切れるユニットだ。彼らの3枚目『Llyria』では、その引き算の美学によるファンクネスがますます研ぎ澄まされている。
スイス出身のピアニストにしてコンポーザーであるベルチュの音楽の魅力を一言でいうと、ピアノの音だけが持つ繊細な質感を特殊なマイクセッティグにより拡張してグルーヴの根幹に据え付けていることだ(ベルチュはスティーヴ・ライヒとジェームス・ブラウンの両方から影響を受けたことを公言している)。ローニンのドラマーであるキャスパー・ラストとベルチュは小学校の時から一緒に演奏しているらしいが、ピアノが単純なメロディ演奏に留まらずリズム隊と溶け合ってうねりを造りだすのが刺激的だ。しかもポスト・テクノ的な硬質な感覚が根底にあることが、既成の「ジャズ/ファンク/ジャズファンク」といった規格に収まらない現代性をもたらしている。
ピアニストによる、こうした新しいグルーヴへのアプローチは、ジョン・ブライオンと組んだ時のブラッド・メルドーやシンセを手にした時のヨン・バルケ、黒人ではロバート・グラスパーなども行っているが、ベルチュの場合あくまでアコースティック・ピアノの質感の拡張に根差しているのが特徴的で、鍵盤捌きの鋭さとその音楽が放つ知性は70年代初頭のチック・コリアの遺伝子も感じさせる。そして、ピアノの録り方を癖や雑味まで知り尽くしたプロデューサーであるマンフレート・アイヒャーがこのローニンの音楽を面白いと感じたことにも納得がいく。
浪人、というグループ名からもわかるように黒澤明の映画に感化され、日本に滞在したこともあるベルチュ。楽器と楽器の間の隙間を活かしたアレンジは居合抜きのように緊張感がみなぎり、空気の振動までもがグルーヴに貢献するという瞬間を『Llyria』では何度も耳にすることが出来る。彼がECMと契約する前の音源より先の領域にいよいよ足を踏み込んでいるのだ。フランスのスタジオで録られた本作、アイヒャーとベルチュのスタジオでの緻密かつ緊密な作業については近々DVDリリースされるECMのドキュメンタリー映画(10/16の「ECM Catalog」出版記念祝賀会でも紹介される)にもそのやり取りが捉えられているのだが、ナノ・セカンド単位の徹底した拘りに唸らされる。『Llyria』は、沈黙に耳を傾けあるゆる無駄を省いたECMマナーの上に成立している贅を尽くした現代ファンク・アルバムだ。
この10月には
Real&Trueの招聘でベルチュが来日し、グループでもソロでも彼の最新の演奏を楽しむことが出来る。ECM愛好家のみならず、新しいグルーヴ・ミュージックを探している音楽ファンは必聴のライヴだ。伝え聞くところによると、ローニンはフェスで4時間以上も演奏することもあるらしい。(今村健一)
* 関連サイト:
http://www.bigstream.co.jp/artist/1010_ecm/index.html
* 試聴サイト:
http://player.ecmrecords.com/baertsch
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