#  730

ユニット・アジア/スマイル・フォー・ユー
text by 栃久保敬/ Takashi TOCHIKUBO

Planet Arts PLC-1003 2,800円

三好“3吉”功郎 Miyoshi "SANKICHI" Isao (g)
則竹 裕之 Noritake Hiroyuki (ds)
コー・Mr. サックスマン Koh Mr. Saxman (sax)
テイ・チャー・シアン Tay Cher Siang (p)
一本 茂樹 Ippon Shigeki (b)

1.Prelude au voyage (プレリュード・オ・ヴォヤージュ) Isao Miyoshi
2.Lost Your Love (ロスト・ユア・ラブ) Isao Miyoshi
3.The Art of the Wind-Up Alarm Clock (ザ・アート・オブ・ザ・ウインドアップ・アラーム・クロック) Tay Cher Siang
4.Quiet Love (クワイエット・ラヴ) Isao Miyoshi
5. My Simple Spirit (マイ・シンプル・スピリット) Isao Miyoshi
6.For Grandma (フォー・グランマ) Isao Miyoshi
7.Galinha do Caril (ガリーニャ・ドゥ・カリル) Tay Cher Siang
8.Hot Curry, Summer Dish (オツカレ・サマデス) Isao Miyoshi
9.The Sea Outside My Window (ザ・シー・アウトサイド・マイ・ウィンドウ) Tay Cher Siang
10.Smile for You (スマイル・フォー・ユー) Isao Miyoshi
11.Chasin’ the Dragon (チェイシン・ザ・ドラゴン) Shigeki Ippon
12. All Season (オール・シーズン) Koh Mr. Saxman

Produced by unit asia
Recording and Mixing Engineer: 森本 八十雄 (Crescent)
Recorded and Mixed at Wonder Station. Tokyo (19,20,21 May/2,3 June, 2010)
Mastering Engineer: 上田 佳子 Keiko Ueda (Wonder Station)
Illustrated and Designed by 和田 誠 Makoto Wada
Photographed by ヒロ伊藤 Hiro Ito, Boontita Subhabrabandhu



アジア人の多国籍ユニットでここまで一体感のあるバンドはおそらくないだろう。ライヴ盤に続く初のスタジオ・レコーディングとのことで収録前はこれから完成する記念碑的作品に胸を躍らせていたに違いない。まず、クオリティと技術の高さに驚いた。メンバーそれぞれが作曲したという曲は並べてみてもどれもどこか懐かしく普遍性がある。多国籍ユニットということを考えると、同じアジア人というアイデンティティがあるからこそより共感できるのではないかというところまで思いを巡らせてしまう。音楽には国境がないというが、さまざまなジャンルを吸収したその奏法やフレーズには「ユニット・アジア」の個性がでており、アジアを超えてワールドワイドな要素を持っているということをまざまざと感じさせてくれる。

「ユニット・アジア」は日本のジャズ、フュージョン、ポップスなどの多彩な音楽ジャンルで常に意欲的な活動を行う3人の気鋭のミュージシャン、三好功郎 (Guitar)、則竹裕之(Drums)、一本茂樹(Bass)に、タイの第一線で活躍するサックス・プレイヤー、コー・Mr.サックスマン、そしてマレーシアの新進気鋭のピアニスト、テイ・チャー・シアンという5人の個性豊かなミュージシャンたちにより結成されたユニット。各人がそれぞれの国の第一線で活躍しており、プレイヤーとして目覚ましいキャリアを持つ。

1.<Prelude au voyage> はヨーロッパのガリシアの伝統音楽のような少しケルトの匂いを感じさせる、サックス・ライン、ギターの高音域のカッティングなどその気候や風土が音となって現れているようである。突き抜ける青空が見える。変拍子ながらもそれを感じさせない楽曲の構成も見事である。2.<Lost Your Love> はハモンド・サウンドが印象的な三連で綴られたバラード、三好のギターとコーのサックスのユニゾンに想いを伴った同一性を感じる。3.<The Art of the Wind-Up Alarm Clock> の則竹氏の正確無比なハイハットがタイトな曲のグルーブを支える。テイのピアノはクラシックにも裏打ちされながらも、ジャズの自由さとポップス界に通じるようなキャッチーなメロディで曲を紡いでいる。4.<Quiet Love> は北欧音楽のような身にしみるようなセンチメンタルなバラード。やわらかいソプラノサックスの音色にアジアの血を感じる。三好のアコースティックギターも秀逸。まるでエレキギターのように細かいフレーズをなんなく弾きこなしている。5.<My Simple Spirit> こちらも八六の情熱的なミドル。ギターは確かなテクニックに裏打ちされている。冷静さの中にもラテンのギタリストのような情熱を感じさせる。ハイノートや息が荒々しくもれるブロウを吹きこなすサックスは余裕さえ感じさせる。6.<For Grandma> 木漏れ日の中にいるようなアコースティックギターが心に優しい。7.<Galinha do Caril> ボッサ調のパルチードが効いた爽やかなナンバー。途中バトゥカーダもありクラブ・リスナーにも好まれそうな楽曲である。8.<Hot Curry, Summer Dish> ディストーションのギターがめまぐるしく拍子が変わる楽曲の中で火を噴く。難しいテーマのユニゾンも軽やかに聞こえる。技術は尋常じゃない。9.<The Sea Outside My Window> 叙情的な旋律を奏でるピアノサウンドから始まり、ジャジーなギターとソプラノサックスが一遍のストーリーをもの語っている。10.<Smile for You> 8ビートでギターのオクターブ奏法によるバッキングが絡むシンプルな楽曲。ピアニカのメロディが印象的。ここまで変拍子が多かったため逆に変わった曲に聞こえるのが面白い。11.<Chasin' the Dragon>ハイハットが刻む高速16ビートのリズムの切れ味が凄まじい。サックスソロはスリリングで勇ましい。 それぞれが優秀な演奏家でありながらも、各々の作曲が自分だけの楽器を生かすためだけの曲になっていない。それはメンバーへの信頼や優しさ、尊敬などがあるからであろう。そしてそれが良い意味でわかりやすい音楽になっているというセンスとテクニックと感性の高さに脱帽である。

最後になってしまったがこのユニットは「アジアで活躍する優れたジャズ・ミュージシャンによる新たな音楽(ジャズ)の創造」を目的に、2008年10月中旬から約1ヶ月間、国際交流基金の主催事業として実施された東南アジア・ツアー(シンガポール、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、タイ)をきっかけに誕生したグループ。行政にはこういった素晴らしい化学反応が実現できる文化的事業を積極的にサポートしていただきたいと切に願うものである。
(栃久保敬)

* 発売記念ライヴ:
http://www.planet-arts.co.jp/unitasiajp/liveua.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
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#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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