# 732
『加藤真一/Melody by CONTRABASS』
text by 加瀬正之
加藤真一 (コントラバス)
浅川太平 (ピアノ、シンセサイザー、クラヴィコード)
1. 愛の休日
2. シーズ・リービング・ホーム
3. 創世のエレジー
4. 悪魔のロマンス
5. ロミオとジュリエット
6. 風紋
7. ソング・オブ・ネンナ
8. アンダンテ・フロム・フルートソナタ
9. 暮雪
10. ソング・オブ・リディア
11. クレッセント・ヌーン
12. グリーンスリーブス
13. フール・オン・ザ・ヒル
14. トゥルー・ワン
15. 恋とはどんなものかしら
録音:2010年4月19日、2010年6月9日
近年は自身のリーダー・バンド=B-HOT CREATIONS、フリー・ジャズ・ピアニスト、スガダイローとのデュオによる“ジャズ・サムライ”シリーズなどでも話題を呼んでいるジャズ・ベーシスト、加藤真一の新作が届けられた。
北海道空知郡奈井江町出身のジャズ・ベーシスト、加藤真一といえば、佐藤允彦トリオ、嶋津健一トリオ等での活躍でも知られるが、今年の3月に加藤真一が音楽監督を務め、B-HOT CREATIONSと共に演奏でも出演した劇団人間座の舞台『日輪〜あるいは夜の曳航』を拝見させてもらったが、ジャズと劇・舞台が最高の形で融合するのを目の当たりにしていたく感動した。
新作のタイトルは『Melody by CONTRABASS』。この“コントラバスによる旋律”と題された作品は、2003年頃一杯ひっかけて帰ろうと、とあるジャムセッションを覗いた時に“場違いなほど美しいピアノの音”を耳にし、それ以来共演を重ねてきたという注目の若手ピアニスト浅川太平を従え、加藤真一自身が「もとよりこれはベースの為に書かれているのではないか?」という疑いを抱いた楽曲を独断で集めたというバラエティー豊かな選曲が目に留まる。
オープニングのミッシェル・ポルナレフの「愛の休日」。ビートルズの名盤『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に収録の「シーズ・リービング・ホーム」、『マジカル・ミステリー・ツアー』に収録の「フール・オン・ザ・ヒル」。そして、カーペンターズの名盤『クロス・トゥ・ユー』に収録の「クレッセント・ヌーン」を取り上げるあたりは、15才の時にビートルズを聴いてギターを弾き始め、高校時代はロック・バンドを結成してクリームやディープ・パープルを演奏していたという幅広い音楽ジャンルを知り尽くすジャズ・ベーシストならではのセンスを感じさせる。何を隠そう…加藤真一はカレン・カーペンターの隠れファンだそうで、数々のヒット・ナンバーからの選曲ではなく、B面的歌曲の素晴らしさに「クレッセント・ヌーン」を選んだという。何とも心憎い選曲だが、「愛の休日」と「フール・オン・ザ・ヒル」では渾身のピチカート(指弾き)、「シーズ・リービング・ホーム」と「クレッセント・ヌーン」では美しいアルコ(弓弾き)を披露している。
B-HOT CREATIONSのナンバー「終曲」のヒントにもなったというアスター・ピアソラ作の「悪魔のロマンス」で聴かせるアルコも実に素晴らしく、アルバム全体を通してアルコとピチカートのバランスの良さがとても心地良い。そして、加藤真一との共演歴も長く、莫大な作曲数を誇る佐藤允彦(p)作の「風紋」、海外での評価も高い作曲家でジャズ・ピアノの腕前も強力といわれる安田芙充央作の「ソング・オブ・ネンナ」と「ソング・オブ・リディア」も、バラエティー豊かな楽曲の中で華を添えるような深い味わいを感じさせ、浅川太平のピアノ、シンセサイザーのプレイも絶妙。その浅川太平が作曲した2曲、「創世のエレジー」が放つ独特のメロディ、加藤真一に贈ったという「トゥルー・ワン」(曲名は「真一」の直訳)でのピアノとコントラバスの見事な掛け合いも印象深く、優しい響きの中に伝わる緊張感も堪らない。
作品の中でピアノ以外に聴きなれないながらもとても印象深い音色が響くが、これはラテン語のclavis(鍵)とchorda(弦)に由来し、ピアノの前身ともいわれる“クラヴィコード”という楽器の音色で、このクラヴィコードを使用するアイディアは浅川太平によるものだそうだ。「ロミオとジュリエット」「アンダンテ・フロム・フルートソナタ」「グリーンスリーブス」「恋とはどんなものかしら」等で聴くことができるが、中世のヨーロッパを感じさせるような独特の雰囲気を醸し出しており、コントラバスとの相性も素晴らしい。
加藤真一本人が「このCDは私の実に個人的な趣味なのです」と語っているが、それはファンが一番望んでいた作品かもしれない。そのこだわりの精神と渾身のプレイが見事に捉えられており、音楽業界でも伴奏楽器という認識が高いコントラバスが、華々しくステージのセンターに立ってスポットライトを浴びるかのような存在感を放っている。全15曲のラストを飾るモーツァルトの「恋とはどんなものかしら」でも、アルコとクラヴィコードが華麗な共演を果たしているが、拍手喝さいの中、満足げにステージを後にするジャズ・ベーシスト、加藤真一の姿が想像できるような、底知れぬ達成感が味わえる作品だ。(加瀬正之)
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