# 733
『THE BAD PLUS/NEVER STOP』
text by 望月由美
The Bad Plus:
リード・アンダーソン (b)
イーサン・アイバーソン (p)
デヴィッド・キング (ds)
1.The Radio Tower Has A Beating Heart (D.King)
2.Never Stop(R.Anderson)
3.You Are(R.Anderson)
4.My Friend Metatron(D.King)
5.Peaple Like You(R.Anderson)
6.Beryl Loves To Dance(R.Anderson)
7.Snowball(R.Anderson)
8.2P.M.(E.Iverson)
9.Bill Hickman At Home(E.Iverson)
10.Super America(D.King)
プロデューサー:The Bad Plus
エンジニア:Brent Sigmeth
録音: 2010年3月 PACHYDERM IN CANNONFALLS,MN.
ザ・バッド・プラスの2年ぶりの新作である。ウェンディ・ルイスのヴォーカル入りの前作を除けば「prog」以来足掛け4年ぶりの作品である。結成して丁度10年という節目にあたる本作は全曲3人のオリジナルで統一されていて、全編にわたって結束力の強いユニットとしての意志が表面に出た作品である。
これまでは、アルバムの中に必ずオーネット・コールマンやスティング、デヴィッド・ボウイなどのカヴァー・ヴァージョンを何曲か入れて、オリジナルとの対比を際立てることによって存在感を示してきたが今回はカヴァーものなしでザ・バッド・プラスの音楽をよりピュアに表現している。
まず、従来と一番の違いは音の密度、凝縮感である。これまでのザ・バッド・プラスのサウンドはピアノもドラムズもベースもくっきりと分離してそれぞれが明瞭に浮き上がるような音創りのように聴いてきたが、本作の音は3者の音が交じり合ってひとかたまりになってとんでくるような音であり、従来の作品よりは荒々しいがその分インパクトがあり、衝撃度が強い。3人の曲創りもそれぞれに明確な主張があり、ポップ調でアヴァンギャルドな作風のD.キング(ds)、メロディアスでセンチメンタルなR.アンダーソン(b)、そして最も伝統的なジャズの香りを漂わせるE.アイヴァーソン(p)と3者3様で、その交わり具合がグループ・エキスプレッションとなってユニークさを確立する隠し味になっているのである。たとえば(1)<The Radio Tower Has A Beating Heart>ではD.キング(ds)のシンバルが耳をつんざくように連打される中をE.アイヴァーソン(p)がテーマを弾きソロをとるが、嵐のようなシンバルとピアノが格闘するようなシーンもあり、まるでかつての森山〜山下の様相をすら連想させる過激さが垣間見られる。また(2)<Never Stop>では一転してヒップホップ的な軽快なノリでコミカルな楽しみを与えてくれる。この曲はファッション・ショーで使った曲とのことで彼らのサイトではファション・ショーの動画も流している。まさにショー・チューンといったリズミカルな演奏でステップも軽くウォーキングがしたくなるような曲である。そうかと思えばR.アンダーソン(b)の(7)<Snowball>では3者の緊密な対話によって趣味の良いスロー・バラードが展開、それまでの過激なプレイと繋げて違和感なく聴かせてしまうのはやはり、3人の技量の確かさを証明している。R.アンダーソンはフェイヴァリット・アーティストとしてチャーリー・ヘイデンを挙げているが、ここでの重心の低い、腰の据わったベース・ソロはヘイデンを連想させる。このバラードを機にE.アイヴァーソン(p)の作品 (8)、(9)と一気にジャズのモードに入りグルーヴィーな展開が強まる。アイヴァーソンは少し前、アル・ヒース、ベン・ストリートとのスモールズでのライブ作『Live At Smalls』 (Smalls Live)でパーカーやバド・パウエル、ビリー・ストレイホーン等ジャズ・グレイツの古典的な名曲をクールでセンシティブに弾いていたが、ここでも説得力のあるプレイで存在感を示している。 (8)<2P.M>での呼吸の合った3者の絡みは他のグループにはない新鮮さがある。
今回のレコーディングでは、50年代から60年代のジャズのレコーディングのようなアプローチをとり、ブースによる仕切りを行わず一つの部屋の中で3人が顔を付き合わせて生音を聴きながら行ったという。当然、ピアノにもシンバルが被るし、音の分離も難しい。しかし、その狙い通り、本作はライブで演奏している時のように3人がエモーションを共有しあう空気感が創り出され、一体感と勢いのある作品となっている。
結成10年という節目にあたって、彼等は原点に回帰し、さらに新たなリスタートを切ったように思える。
(2010年9月 望月由美)
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