# 734
『ボビー・ワトソン feat.UMKC コンサート・ジャズ・オーケストラ/ザ・ゲイツBBQ組曲』
text by 小西啓一
1.May I Help You?
2.Beef on Bun
3.Heavy on the Sauce
4.Blues for Ollie
5.The President's Tray
6.One Minute too Late!
7.Wilkes' BBQ
Bobby Watson (as, composed & directed)
The UMKC Conservatory of Music and Dance, Concert Jazz Orchestra
Recorded and Mixed by Bill Crain at BRC Audio Productions, Kansas City
Mastered by Bill Crain at BRC Audio Productions
Produced by Bobby Watson and Bill Crain
カンザス通の竹村洋子さんから1枚の新譜が届けられた。サックスのボビー・ワトソン、懐かしい名前である。ワトソンといえば、やはり御大アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズ (JM) のイメージが強い。70年代の終わり頃、天才児=ウイントン・マルサリスと主に、斜陽であったJMの建て直しに、大いに貢献した賢弟(音楽監督でもあった)と言った感じで、それ以降は様々なバンドに在籍、リーダー作も少なくはないが、地味目で強烈な個性に欠ける点などもあり、余り確固とした印象には乏しかった。その上ここ数年は、ほとんどその名前を耳にすることも無くなってしまっただけに、お懐かしやと言った感じも強い。それもそのはずで、彼は2001年にはNYを離れ、故郷のカンザス・シティに戻り、大学で教えたり同地でライブ活動をしたりと、完全にカンザス人になってしまい、それだけにその動向は、はるか東京の地には、伝わってこなかったと言う次第…。しかしそこは実力派、カンザスの地では最も重要なジャズ・ボスの一人で、それを確実に裏付け、と同時にその強烈な“カンザス愛”を滲ませてくれるのが、この新譜『ザ・ゲイツ・BBQ組曲』なのである。
恥ずかしながらBBQがバーベキューのことだと、ぼくは今回初めて知ったのだが、そのBBQはカンザスの名物料理。そのことについては以前に、竹村さん自身も熱く愉しく語ってくれていた様だが、そのカンザスBBQを代表する店が“ザ・ゲイツ”で、ワトソンもこの店が大のご贔屓。とうとうその店を讃える7部からなる組曲を作ってしまったのだが、それがこの新作。ここでは彼は、作曲とディレクションがメインで、主役は彼の教えるミズーリ州立大学カンザス・シティ校の学生およびそのOBによる17人編成のバンド“THE UMKC CONCERT JAZZ ORCHESTRA”。アメリカの学生バンドは、テキサス州立大学に代表される様に、本職顔負けのバカテク・バンドも多いようだが。このカンザスの学生バンドもその実力はたいしたもの。音のソリも見事だし、アンサンブルもバッチリ。ただし、さすがにソリストとなると、いささか力不足で魅力に欠ける場面もある。ここはひとつ彼らのダイナミックなフル・バンド・サウンドをバックに、ワトソンのパワフルでホットなアルトが、熱くしたたかに大泣きする…、となればぼくを初め多くのファンは大喜びのはずだが、そこは教育者…。教育的観点などから、全面フィーチャー曲はほとんどなく、学生達を立てることが第一義、そこら辺がイマイチもったいないところ。
ただし、どの曲も“カンザスBBQ”の美味しさ、“ザ・ゲイツ”の愉しさなどがダイレクトに伝わってくる、お楽しみナンバー揃い。カンザスにBBQあり…を楽しみにとなってしまうほど、と言うのはいささかオーバーだが、じつにあっけらかんとして、心弾む快調ナンバーが並ぶ。オープニング曲の終わりでは、おそらく店員と思える黒人女性が、“何にします…”と快活に注文を聞いてくれるし、ラスト曲でのワトソンのソロも良く乗っている。ぼく自身のお勧めを言えば、3人のパーカッション奏者が活躍するラテン・ジャズ・タッチの<ザ・プレジデンツ・トレイ>。冒頭からリズム隊の饗宴で燃え上がり、巧みなアンサンブル陣を鼓舞する、バックのパーカス群も印象的。こんなバックならば、BBQもさらにホットに美味しく感じられるはずですよね…。(小西啓一)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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