# 738
『スティーヴ・ドブロゴス/ユア・ソングス〜plays エルトン・ジョン』
text by 今村健一
Curling Legs/BOMBA BOM24179 2,520円(税込)
1 .Shine on Through
2 .Tiny Dancer
3 .I Need You to Turn to
4 .My Father’s Gun
5 .Sacrifice
6 .Blues for Baby and Me
7 .Pinky
8 .Daniel
9 .High Flying Bird
10. Can You Feel the Love Tonight
11 .Friends
12 .Harmony
スティーヴ・ドブロゴス(piano)
録音:2010年6月26日 オスロ、レインボー・スタジオ
エンジニア:ヤン・エリク・コングスハウク
エルトン・ジョンは作曲家というよりはあくまで<ソング・ライター>と呼ぶべきだろう。というのも、彼の曲の大半がバーニー・トーピンの書く歌詞ありきでエルトンがメロディを付けていくという形で創作されてきたからだ。
ジャズとクラシックの領域に跨って静かながら精力的に活動を続けるスティーヴ・ドブロゴスのカーリング・レッグスにおける第2弾はタイトル通りエルトン・ジョンのソングブック。前作『ゴールデン・スランバース』がビートルズのカヴァー集だった訳だが、思うにドブロゴスの興味は、単純にポップ・ミュージックからメロディを抽出しジャズ化することではなく、曲と詞が一体となった“うた”からまた新たな“うた”を引き出すことにある。
一聴すると普通に主旋律の立ったエルトン印のバラードに聴こえるのだが、原曲と交互に比較するとオリジナルとは違うカウンターメロディ等に光が当てられており、しかも独自に発展させたメロディまでもがエルトンの曲世界と違和感なく地続きになっているのだ。原曲を崩しジャズ・イディオムに巻き取っていくのではなく、ごく自然に“うた”が拡散していく感触。『エルトン・ジョン3(Tumbleweed Connection)』所収の「父の銃」における、スティーヴ・キューンの最も美しい瞬間を切り取ったような旋律の紡ぎ方など鳥肌ものだ。
しかし本作は、決して甘さに流されることが無く、きちっとネジが締められた凛々しさに貫かれている。それはドブロゴスのピアノが聖性(ホーリーネス)を放っているからだ。彼は『ゴールデン…』でも「トゥー・オブ・アス」や「ブラックバード」など軽快な原曲を思い切りダウンテンポのアレンジに変えて弾いていた。その手法は本作にも引き継がれ、例えば大ヒットした「愛を感じて」など非常に人懐っこいメロディを持つが故に下手すると俗っぽくなりかねないのだが、「ゴルトベルク変奏曲」を髣髴とさせる程のスローで弾くなか原曲の持つバタくささを浄化しきっている。
このドブロゴスの“うた”に対する拘りは、古くはラドカ・トネフ、最近ではアンナ・クリストファーソンといった歌手とのコラボレーションが彼のキャリアにおける重要なアクセントになっていることや、「ミサ」のようなクラシックの合唱曲を書いてきたなかから、自然に彼自身の作風として形成されてきたのだろう。
とてもシンプルで聴きやすい。しかしながら、とてつもなく奥の深いカヴァー集であることが、本サイトの耳の肥えた読者なら感じ取れる筈だ。(今村健一)
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