#  741

『Perry Robinson Trio - From A To Z』
text by Nobu Stowe/須藤伸義


Jazzwerkstatt 085

Perry Robinson clarinet
Ed Schuller double-bass
Ernst Bier drums, percussion

Sooner Then Before
Loose Nuts
Unisphere
Funky Giora
Joe Hill
Switchbacks
A.K.A. Snake
Mountain Soup
From A To Z

Recorded on November 25, 2008
Recorded at Fattoria Musica, Osnabruck, Germany
Recording Engineer: Stephan van Wylick
Mixing and Mastering Engineer: Stefan Weeke
Producer: Perry Robinson/ Ed Schuller/ Ernst Bier
Executive Producer: Ulli Blodel



ペリー・ロビンソンは、スウィング時代の花形楽器だったクラリネットを、フリー・ジャズ的表現に持ち込んだパイオニアの一人だが、過小評価の感が否めないミュージシャンだ。もっともコレは、彼の“ビートニク”的な性格も、災いしている気がする。ペリーとは、筆者のアルバム『Hommage An Klaus Kinski』(Soul Note:2007年)に参加してもらった縁で親しくしているが、彼が、「フレンドリー過ぎて、リーダーとしての自己顕示欲に欠ける」のは確かだと思う。

一般的なペリーのイメージは、前衛系のクラリネット奏者としてのモノだと思う。実際、ESPレーベルが1965年に発表した『Henry Grimes Trio』以降、“革新的”ジャズを代表するアルバム群、アーチー・シェップtsの『Mama To Tight』(Impulse!:1966年)、チャーリー・へイデンbの『Liberation Music Orchestra』(Impulse!:1969年作)、カーラ・ブレイpの『Escalator Over The Hill』(JCOA/ECM:1971年)、ポール・ブレイの『Synthesizer Show』(Polydor:1971年)に順次参加。だが、父親(アール・ロビンソン)がハリウッドの有名作曲家だったペリーは、“伝統的”音楽にも精通しており、デイブ・ブルーベックpが息子たちと結成した2世代バンドや、有名フォーク・シンガーのピート・シーガーやアレン・ギンズバーグのアルバムにも参加している。こうした事実からも、彼が、如何に他のミュージシャンから信頼・重宝されて来たか、窺(うかが)い知る事が出来る。

ただ、その評価も“サイドマン”としてのモノで、自身のリーダー作は、1961年のデビュー作『Funk Dumpling』(Savoy)以降、1978年にポール・ブレイの設立したIAIレーベルに、バダル・ロイtablaとナナ・ヴァスコンセロスperと吹き込んだ『Kundalini』まで発表されていない。その後は、自身のクァルテット及びトリオを率い、アルバムを数年置きに発表して来ているが、彼の音楽性に見合った評価を享受しているとはいえないと思う。
だが、前述の『Funk Dumpling』(盟友グライムスbの他、ポール・モチアンdsと、デビュー直後のケニー・バロンpが参加)や『Kundalini』等、彼の音楽性をよく理解する共演者を得ての作品は、何れも傾聴に値する。特に重要なのは、1984年から続く、エド・シュラーとアーンスト・ビアーが参加しているプロジェクトだ。当初は、サイモン・ナバトフ他のピアニストを加えてのクァルテット編成だったが、2000年以降よりトリオを中心に活動している。そのトリオの近況を伝える好作品が、ここに紹介するアルバム『From A To Z』だ。かつてWest Windレーベルを主宰していたウーリ・ブロベルのJazzwerkstatt レーベルより発表された。録音も良く、ペリーの代表作の1枚足り得る出来栄えだ。

ベーシストのエド・シュラーは、ジャズ理論の大家=ガンサー・シュラーの息子で、ポール・モチアン、ジョー・ロバーノts、マット・マネリvln、バートン・グリーンp他のユニットで活躍して来ている。リーダーとしては寡作家だが、サイドマンとしての参加作品は多い。JT誌読者用(?)に「アナット・フォルトpのECMデビュー作『A Long Story』(2007年)に、ペリーと共に参加」と記しておこう。

ドイツ人ドラマーのアーンスト・ビアーは、ハノーバーより車で1時間程南西に下った街=バーントゥルップ(Barntrup)の出身。アッティラ・ゾラーgのトリオに在籍後、1982−87年は、ニューヨークに滞在。テッド・カーソンtp、ジュニア・クックts、レイ・アンダーソンtb他と演奏後、ドイツに戻り、ベルリンを中心に活躍している。ハーブ・エリスg、ラリー・コリエルg、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバックp、デイブ・パイクvib、ロルフ・キューンcl、ソニー・フォーチュンas等、伝統派・革新派を問わない多彩な共演歴が示す様に、柔軟なスタイルの持ち主。

本アルバムは、エド・シュラー作〈Sooner Then Before〉で幕を開ける。オーネット・コールマン初期作を思わす印象的なテーマのせいか、ペリーのフレージングからは、ドン・チェリーの幻影がちらつく。勿論、コピーとかのレベルでは無く、“雰囲気”の話だが...。メロディックなベース・プレイ、しなやかに踊る様なドラミングも、音楽のイマジネーションを膨らませている。ペリーの従兄弟で、シアトル在住のピアノ奏者=グレッグ・ロビンソン作の〈Loose Nuts〉は、少しファンキーなリズムと“間”を生かした様なメロディーが特徴だ。如何にもフリー・ジャズ的な〈Unisphere〉は、『Henry Grimes Trio』(ESP)へのオマージュにも聞こえる。この評は、シュラー作の7曲目〈A.K.A. Snake〉にも当てはまる。4曲目の〈Funky Giora〉 は、タイトルに反して、中近東フレーバーのエキゾチックな楽曲・演奏。志半ばで殺人犯人の濡れ衣を着せられ、銃殺刑に処せられたアメリカの労働運動の開拓者に捧げられた〈Joe Hill〉は、ペーリーの父君=アール・ロビンソンの代表曲。ジョーン・バエズが、ウッドストックで歌ったヴァージョンが、有名だが、ここに収録されている演奏も中々だ。夢の中を漂うなシュラーのアルコをバックに、ペリーが、歌詞の1部を朗読する。それに続くパートは、フォーク的メロディーを生かしたアレンジで「キース・ジャレットの〈My Back Pages〉を思わす」と書いたら近いだろうか。ペリーのオカリナの牧歌的音色から始まる〈Mountain Soup〉から は、映画『真夏の夜のジャズ』のオープニングを飾るジミー・ジェフリーreedsの〈The Train And The River〉を思い出した。前衛性の中にも、素朴なリリシズムを忘れないのが、ペリーとジェフリー双方の音楽に共通する魅力だが、二人が受けたフォーク・ミュージックの影響だろうか。無調的な出だしから、甘美なメロディーに流れるタイトル曲〈From A To Z〉は、ヴァリエーションに富んだ本作の音楽性を凝縮した様な楽曲/構成が、味わい深い余韻を残してくれる。

余談だが、Jazzwerkstatt主催のフェスティバルが、11月にニューヨークで開催される。ペリーのトリオの他、ロルフ・キューン、ギュンター・ソマーds/ウーリッヒ・グンパートp他、ドイツの重要ジャズマンをアメリカで聴ける数少ない機会なので、楽しみにしている。(Nobu Stowe/須藤伸義)

*『Perry Robinson Trio - From A To Z』は、アマゾン他で購入可能。

**レーベルの詳細は、以下のホーム・ページで:
Jazzwerkstatt

***ミュージシャンのホーム・ページ:

Perry Robinson: http://www.myspace.com/perryrobinson
Ernst Bier: http://www.jazzdrumming.de/

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