#  745

『Ulrich Gumpert/Gunter Baby Sommer - Das Donnernde Leben』
text by NOBU STOWE /須藤伸義


Intakt CD 169

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Ulrich Gumpert (piano)
Gunter Baby Sommer (drums)

Locker vom Hocker; Von C bis C; Blues fur P. K.; Ermutigung; Free For Two; Inside Outside Shout; Funk For Two; Kami-Fusen; Soldat, Soldat; Free Of All; Das kann doch nicht alles gewesen sein

Recorded on May 4th and 5th, 2009
Recorded at Kulturaradio von Rundfunk Berlin Brandenburg
Recording Supervisor: Wolfgang Hoff
Sound Engineer: Peter Schladebach
Radio Producer: Ulf Dreschsel
Produced by Patrik Landolt

『Das Donnernde Leben』(Thundering Life)は、旧東ドイツ出身のピアニスト=ウルリッヒ・ガンパートとドラマー=ギュンター・ソマーからなるデュオの最近作だ。JT誌に既に何度か書いたと思うが、ピアノ/ドラムからなるデュオは、筆者が特に好きなフォーマットである。変則的な編成からして“フリー系”の音楽 ― 例えばセシル・テイラー/マックス・ローチ『Historic Concert』(Soul Note:1979年)や富樫雅彦/山下洋輔の『兆』(Pony Canyon:1980年)― が主体だが、例外も意外に沢山ある。ピアニストの個性によるところが大きいと思うが、ローチがアブドラー・イブラヒム(ダラー・ブランド)と組んだ『Stream of Consciousness』(Baystate:1977年)は、アフリカの大地を連想させるスケール感が耳に残るし、ウエストコースト・ジャズの重鎮=シェリー・マンとラス・フリーマンの『One on One』(Contemporary:1982年)は、南カリフォルニアの乾いた陽光を感じさせるプレイが心地よい。いつかカタログを編集して見ようと思っているが、時間の都合で何時の事になるやら...。

話題が反れてしまったが、本作は、個性的な作品が多いピアノ/ドラム=デュオ作の中でも、特に印象に残るアルバムの一つだと思う。作曲やアレンジに重点が置かれている事が、その一要因だと思うが、演奏の“自発性”も十分カバーしているので、ジャズ作品として聞き応えのある一枚だと思う。多彩な音楽性が楽しめる。

その魅力は、1曲目〈Locker vom Hocker〉の構成/展開に凝縮されているかもしれない。この曲は、ユーモア味を交えたソマーのドラム・ソロで幕を開ける。続いて、軽妙なテーマをピアノが“フーガ風”に提示するが、直ぐソマーのスキャットを合図に、スウィンギーなフォービートに発展、“フリー”な間奏部を含み、またフォービートで終わる。8分弱の演奏で、こんな雑多な音楽性を無理なく詰め込む素養は、ドイツ人気質のガッチリとした構成美のなせる技か?それは、5分弱の5曲目〈Free for Two〉にさらに顕著に聴かれる。不協和音を効果的に使ったリズミックなモチーフから始まり、スウィンギーなピアノ・ソロ、ティンパニの様な特殊タムを使ったブリッジを挟み、ラグタイム風のビートの上で、ピアノがストライド奏法+フリー・プレイを決め、オープニングを飾ったリズミックなモチーフで終わる。

フリーな展開から、ラグタイム、ストライド奏法まで包括するガンパートのピアニズムは、ジャキ・バイアード等からの影響もあるのだろう。しかし、それをコピーのレベルで終わらせず、クラシック音楽の基礎を生かし“東欧の哀愁”で個性豊かな音楽に昇華させた実績は、高く評価されるべきであると思う。スウィンギーなパートのソロで気がついた事だが、彼のピアノは、ハービー・ニコルス、エルモ・ホープ、フレディー・レッドといった、セロニアス・モンク系のコンポーザー=ピアニスト達の音楽性に通じるものがある。特に8曲目〈Kami-Fusen〉のプレイは、レッドの隠れ名盤『Under Paris Skies』(1971年:Futura Swing)収録の名バラード〈You〉という曲/演奏を思い出してしまった。因みに〈Kami-Fusen〉の作曲者は“Ino”とクレジットされているが、これはベースの井野信義の<紙風船>として知られる曲である。

フリーな奏法を基本にしつつ、変幻自在のリズムを叩き出すソマーのドラムも、ガンパートのピアノと同様の賞賛に値するだろう。イマジネーションに溢れ、ユーモアを内在する彼のドラミングは、オランダのハン・ベニンクに近い気もする。ソマーの方が、繊細で空間を紡ぎ出すようなプレイについては、少しハメを外す事の多いベニンクより、勝っているかもしれない。ベニンクにしろ、確かな基礎の理解力を持つソマーの演奏は「真の革新は、伝統の否定より、発展の上にこそ成り立つ」と啓示している様だ。

“東欧の哀愁”と書いたが、〈Ermutigung〉、〈Soldat, Soldat〉、〈Das kann doch nicht alles gewesen sein〉の3曲は、東独出身の歌手ウルフ・ビアーマン(Wolf Biermann)の人気曲で、歌謡的メロディーが郷愁を誘う。ライナーに拠ると、ビアーマンは、このデュオの結成に絡んでいるそうだ。それは、1973年の事で、結成時の録音は、FMPに残されているらしい。是非、探して聞いて見たい。

11月末にニューヨークで行われるJazzwerkstattレーベル主催のコンサートに、ロルフ・キューンやペリー・ロビンソン=トリオと共に、ガンパート=ソマーのデュオも来演する予定なので楽しみにしているところだ。『Das Donnernde Leben』は、スイスのIntaktレコードよりのリリースだが、ガンパート=ソマーのコンビは、Zentralquartettというクァルテットの他、Jazzwerkstattというビッグバンドも率いているので、何か関係があるのかも知れない。(NOBU STOWE /須藤伸義)

*『Blues for Tony』は、アマゾン/ディスク・ユニオン等で購入可能。

**バンド/レーベルの詳細は、以下のホーム・ページで:
Intakt Records
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