#  747

『ヘイリー・ロレン/クリスマス・コレクション』
text by 悠 雅彦


White Moon/ビクターエンタテインメント VIC-61643 2,100円(税込)

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1.クリスマス・ソング
2.ウィンター・ワンダーランド
3.ブルー・ホリデイ
4.シュガー・クッキーズ
5.レット・イット・スノー
6.クリスマス・リスト
7.ホーム・フォー・ザ・ホリデイズ
8.ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス
9.サンタ・ベイビー
11.フロム・ザ・マウス・オヴ・ベイブス
12.ネイチャー・ボーイ
13.アイム・センディング・ユー・マイ・ハート・ディス・クリスマス

ヘイリー・ロレン(vocal)
マット・トレーダー(piano)

 タイトルにクリスマスの字が躍る。今年もそんな季節になったのか。
 新作では今季初めて聴いたクリスマス・アルバム。この1作はクリスマスに大した関心がない人にも、ヴォーカル好きのファンならきっと好感をもつのではないかと思う。原題は『Many times, many ways』で、副題が『A Holiday collection』。邦題をクリスマスに替えたのは、単純にホリデイ・コレクションでは日本のファンにピンとこないというだけの理由だろう。
 日本では『青い影(They Oughta Write a Song)』でデビューし、つい1ヶ月ほど前に新作『アフター・ダーク』が来日記念盤として出たばかりの、採れたての果実を思わせる旬のヴォーカリスト、ヘイリー・ロレンのニュー・アルバム。といっても、吹込自体は『アフター・ダーク』よりも恐らく1年かそこら前だと思われるのだが、子供のころのクリスマスの思い出を静かに回想しているかのような彼女のさりげない唱法に吸い寄せられた。さりげないとは言っても、別にささやくように歌っているわけでも、情感表出が足りないわけでもない。むしろさりげなく感じられるくらい声や表現をコントロールして、あたかも幼いころの思い出を詩に託して口ずさんでいるかのような印象で惹きつけるのだ。その印象は東京でのライヴ(11月1日、銀座ヤマノ楽器7階)でも変わりなかった。
 彼女は今年その<銀座インターナショナル・ジャズ・フェスティバル>に出演して、日本のミュージシャン(太田剣、島田剛、大槻英宣)を含むクィンテットで歌った。ピアノは『青い影』以来彼女の全アルバムでコンビを組むマット・トレーダーで、さすがにピタリと息の合ったところを示した。このクリスマス作品は全編このトレーダーとのデュエットで、歌のバックという役割をわきまえながら、まるで仲のいい友人同士の対話を思わせる演奏で守り立てる彼のピアノにすべてをあずけて歌うロレンの、ヴォイス・コントロールのきいたさりげない表情の唱法が実に好ましい。オープニングこそメル・トーメ作のクリスマス曲としても有名な「クリスマス・ソング」だが、全12曲中名の知られた曲は「ウィンター・ワンダーランド」「レット・イット・スノー」「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」「ネイチュア・ボーイ」ぐらいで、むしろ馴染みのない(3)、(6)、(7)、(9)、(12)などの曲がとても新鮮で、興味深く聴いた。特に「サンタ・ベイビー」のユーモア味が印象的であり、デイヴィッド・フォスターの割と新しい「クリスマス・リスト」なども往年の佳曲のように聴けるのもロレンの歌唱力の賜だろう。4曲目と10曲目でトレーダーの短いピアノ・ソロを挟んでクッションにした配慮も悪くない。
 ロレンは20代半ばを超えたばかりという、ノラ・ジョーンズらとともに注目に値するジャズ・ヴォーカル界の新星だが、『青い影』で昨年ベスト・ヴォーカル・ジャズ・アルバム賞を獲得するなどすでに新人とはいえない活躍をはじめている。ピアノのトレーダーには馴染みがまったくないのでFacebook を検索したら、ロレンとのコンビでオレゴン界隈での活動を活発に展開していることが分かった。彼女が生まれ育ったアラスカのシトカ島で聴ける唯一のラジオ局がジャズやカントリーだったことも、現在のロレンを思えば幸運だったかもしれないが、ことさらジャズを意識することなくごく自然な息遣いでジャズ・ヴォーカルを歌えるようになった下地がこの時代に育まれたのかもしれない。(悠 雅彦)

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追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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