# 748
『ELLIS MARSALIS QUARTET/an open letter to
Thelonious』
text by 望月由美
ELM RECORDS ELM19787
Ellis Marsalis(p)
Derek Douget (ts,ss)
Jason Stewart (b)
Jason Marsalis (ds)
1. Crepuscule with Nellie
2. Jackie-ing
3. Epistrophy
4. Monk’s Mood
5. Strait, No Chaser
6. Light Blue
7. Teo
8. Ruby, My Dear
9. Rhythm-a-ning
10.’Round Midnight
Encore
11.Evidence
All compositions by Thelonious Monk
プロデューサー:Jason Marsalis
録音:2007年10月27,28日
2007年11月7日 (‘Round Midnightのみ)
スタジオ:Music Shed in New Orleans、LA
エンジニア:Steve Reynolds & Chris Finney
新宿ディスクユニオンの1F輸入盤コーナーを物色していた時に店内に流れていたのを聴いて、モンク・フリークとしては見逃すことなくゲット。お店の方に伺ったところエリスは地味な人だし、レーベルも未だ日本に入ってきていないレーベルなので、試験的に数枚入れてみたとのことで、ラッキーな出会いであった。
先月マルサリス・ファミリーの、2009年6月のライブ盤『ミュージック・リディームス』(ユニバーサルUCCM-1190)がリリースされたばかりだが、本アルバムはエリス・マルサリスの自主レーベル(ELM)からの1作で、編成はエリスを中心としたワンホーン・カルテットである。
エリス・マルサリス(p)と親しいニューオーリンズで活躍しているメンバーで構成され、ドラムスにはマルサリス・ファミリーの末っ子、ジェイソン・マルサリスが加わりリズムの要となっている。ジェイソン・マルサリスは本アルバムのプロデューサーも担っており、グループのまとめ役のようである。
モンクのワンホーン・カルテットはコルトレーンやジョニー・グリフィンなどいろいろ歴史的な記録が残っているがこのグループの演奏はどちらかと云うと後期のチャーリー・ラウズ入りのカルテットに近い、手堅く堅実な演奏で、エリスの人柄を反映してかインティメートで落ち着いた雰囲気に統一されている。選曲も優れていて、というよりも、モンクの曲はどれを採りあげても良いということになってしまうのであるが、それにしても1曲目から<Crepuscule with Nellie>をもってくるという発想には嬉しい驚きであり、エリスのオープン・レターの1頁にふさわしく、演奏も素晴らしい。エリスのピアノはいつもながら小細工などせず、淡々と誠実にモンクのメロディーを弾いている。エリスらしい年輪というか円熟味が顕れている。オリン・キープニュースがこのアルバムについて、モンクに対するリスペクトとエリスのオリジナリティがうまく結合されている点を絶賛している。ニューオーリンズで生まれ育って76歳の今日に至るまで、ニューオーリンズにとどまってプレイし続け、世評に流されることなく、マイ・ペースで自らの道を歩んできたエリスは、常に音楽に献身するという姿勢で臨まなければいいジャズは生まれないという信念を持っている。このシンプルな音楽観が同じくニューオーリンズで活躍するアラン・トゥーサンと同じように強い説得力を持つ由縁である。
(4)<Monk’s Mood>は『Himself』(Riverside)同様、スローなピアノに導かれてデレク・ドゥゲット(ts)が先輩を敬うかのように丁寧にテーマを吹く、ふわっとモンクの世界が浮き上がってくるところが嬉しい。(5)<Straight No Chaser>はリズムをフィーチャー、ベースのジェイソン・スチュアートとドラムのジェイソン・マルサリスのカラフルなリズムのショーケースになっている。ここでのドラムは後期モンク4のフランキー・ダンロップ(ds)を意識したようなプレイで、ついモンクの東京コンサートを思い出してしまった。そして、(10)<’Round Midnight>は本作唯一のエリス・マルサリスのピアノ・ソロ。エリスのピアノから夜更けの静けさ、澄み切った空気が立ち昇り、深い。エリスはこの一曲を、日を改めて一人でレコーディングしている。エリスのセロニアスへの想いが集約されたような演奏である。
モンクの作品集といえば、A.V.シュリッペンバッハの『Monk’s Casino』(intact)やハン・ベニンクの『Monk Vol.1』(55 Records)、ハル・ウイルナーの『That’s The Way I Feel Now』(A&M)、林栄一の『Monk’s Mood』(Yumi’s Alley)等々興味深い作品集が沢山あるが本作もその中に加えられるべき一作である。エリス・マルサリスの自主レーベルだからこその企画であり、内容であり、自主レーベルの一つのあり方、方向を指し示しているのではないかと思いながらアンコールとして位置づけられた(11)<Evidence>を聴いた。(望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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