#  749

『Oregon - In Stride』
text by Nobu Stowe /須藤伸義


CAM JAZZ CAMJ7830-2

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Paul McCandless (oboe, English horn, soprano saxophone, flutes)
Ralph Towner (classical guitar, twelve string acoustic guitar, synth guitar, piano)
Glen Moore (double-bass)
Mark Walker (drums, hand percussion)

1.Hop-To-It
2.As She Sleeps
3.Nacao
4.Summer’s End
5.On the Rise
6.Glacial Blue
7.Aeolus
8.Song for a Friend
9.Petroglyph
10.The Cat Piano
11.In Stride

All music composed by Ralph Towner, except “Nacao” by Mark Walker, “Petrohlyph” by Paul McCandless, and “The Cat Piano” by Glen Moore
Artistic Production by Ermanno Basso

Recoded on February 8-12th 2010 at Sear Sound Studio, New York City
Recording Engineer: James Farber
Mixed at Sear Sound Studio on March 31st and April 1st 2010 by James Farber
Mastered by Danilo Ross

今年2010年に結成40周年を迎えた“オレゴン”の最新作『In Stride』(通算28作目)が、CAM JAZZより届いた。言葉本来の意味に於いて真の“フュージョン”バンドだと思うオレゴンの作品やライブを、いつも楽しみにしているのだが、前作の『1000 Kilometers』(CAM JAZZ:2007年)は、少し期待はずれだった。オレゴンは、浮き沈みのないグループで、前作に収められた音楽も、いつも通り立派な内容だった。しかし、プロダクションも含めて、地味な印象を抱いた。最大の要因は、印象的なタウナー・メロディーを慕う楽曲が聴かれなかったことだろう。だから、この新作に対し、一抹の不安を抱いたのも事実。だが、それは杞憂に終わった。

本作最大の収穫は、タイトル曲〈In Stride〉と〈Summer’s End〉だろう。〈In Stride〉は、ラルフ・タウナーが、ウルフガング・ムースピールとスラヴァ・グリゴリャンと組んだギター・トリオ=MGTのデビュー作『From a Dream』 (Material Records:2009年)収録のテイクが初レコーディングで、オレゴンとしては、初演だと思う。しかし、彼らの、近年のライブで良く演奏していた曲(だと思う)。爽やかで躍動感に満ちたテーマと演奏が印象的で、パット・メセニー・グループなどのファンに、ぜひ推薦したい。〈Summer’s End〉も既発表曲で、タウナーのソロ名義作『Lost and Found』(ECM:1995年作)に収録されていた。そちらのテイクは、タウナーのクラッシック・ギターと、ダニー・グッドヒューのソプラノ・サックスのデュオで、「夏の終わり」という題にふさわしい郷愁を感じさせるテーマを、ECM作品らしい澄んだ秋風を連想させる演奏で彩っていた。対する本作のテイクは、彼らには大変珍しく “正当派ピアノ・トリオ”でシットリと演奏されていて、意外な感じがした。だが、タウナーとグレン・ムーアの出会いは、「ビル・エヴァンスとスコット・ラファロに触発された事」に発した事実を思い出し、納得できた。オレゴン演ずる“スタンダード集”を聴いてみたい気もするが、実現はしないだろう。

その2曲も含め、グループのメイン・コンポーザーである、タウナーの作品が中心だが、各メンバーの曲も1曲づつ収録され、ヴァラエティに富んだ音楽性が聴かれる。たとえば〈Nacao〉は、ラテン音楽に詳しいマーク・ウォーカーの作品らしく、軽やかなブラジリアン・フレーバーが魅力的だ。1996年に加入した彼のドラミングは、前任者のコリン・ウォルコット、トリロク・グルトゥのプレイに比べれば“個性”という点で見劣りするかもしれないが、適用力のある柔軟な音楽性で、グループの屋台骨をしっかりと支えていると思う。そう表現すれば“サイドマン的”な人材に思われるかもしれないが、サトルな個性は、なかなか捨て難いと思う。とくに、アフリカのマリ共和国周辺の伝統的打楽器=ジンベを中心にしたハンドドラムと通常のドラムセットを組み合わせた奏法は、結構良い味を出していると思う。〈Petroglyph〉は、マルチリード奏者=ポール・マッキャンドレスの作。ダブルリード楽器のイングリッシュ・ホルンの乾いた音色が印象的だ。オレゴン初期のVanguardレコード時代に通じる、ミステリアスな雰囲気で幕を開けるが、ロックを通過したウォーカーのドラムに乗って、バンドが上昇していく展開が清々しい。個性的な曲が得意なグレン・ムーアは、本作にも〈The Cat Piano〉という特徴ある剽軽(ひょうきん)さを感じさせる作品を提供。タイトルもそうだが、自身でピアノを弾いた曲を過去に収めていた経歴に反して、ユーモラスなベース・プレイとドラムのデュオ。

デュオと言えば、12弦ギターとイングリッシュ・ホルンで演奏される〈Song for a Friend〉を聴いていて「なぜ、オレゴンはECMではないのか?」という疑問が沸いた。本誌読者なら先刻ご承知だと思う(?)が、リーダー格のラルフ・タウナーは、1973年発表の『Diary』以降、現在まで、コンスタントにソロ・アルバムをECMから発表してきている。しかし、オレゴン本体の方は、1972年発表のタウナー/ムーア名義『Trios/ Solos』から少しブランクを空けて『Oregon』(1983年)、『Passing』(1984年)、『Ecotopia』(1987年)といった好作品を続けてECM残したにも拘わらず、Portrait、 Intuition、そして近作のCAM JAZZといったレーベルを転々として来ている。同じくレーベルを離れたパット・メセニー・グループに通じる、多少ポップな感覚が、ECMのレーベル・カラーに少しそぐわない気もするが、近年のECMヒット作=マヌ・カチェの『Neighborhood』(1984年)などはさらに(スムース・ジャズすれすれに)ポップだ。稲岡編集長、アイヒャー総帥に問い質してみて下さい…。

冗談(?)はさて置き、快作『In Stride』 を聴きながら、彼らの次のライブを待ちたいと思う。(Nobu Stowe /須藤伸義)

追伸:上記のレビューを送信してから、前作『1000 Kilometers』を久しぶりに聴き直したら、結構イケルと思いました。決して作品自体の出来は、今回紹介した新作に劣らないと思う。前作には、マイナー調のシットリとした楽曲が多く、そのせいで、当初、地味で暗い印象を受けたのだと思う。オレゴンは、〈Witchi-Tai-To〉(ヤン・ガルバレクもカバーしている、ネイティブ・アメリカン出身のテナーサックス奏者=ジム・ペッパー作の名曲)のイメージが強く、個人的に“爽やか系”の音楽を期待しているからだろう。私的な意見ですが...。それに前作には、密かに(?)得意な“フリー・インプロビゼーション”も2曲収録されている。何時もライブでは、チャレンジしてくれる手法だが、並のフリー・インプロヴァイザーが及ばない、構成力/音楽性を誇り、彼らの素晴らしいミュージシャンシップに納得させられる。

*『In Stride』及び『1000 Kilometers』は、アマゾン/ディスク・ユニオン等で購入可能。

*詳細は、以下のホームページで:

CAM JAZZ Records

OREGON

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Paul McCandless
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